平成18年3月1日づけで、千葉大学大学院医学研究院 認知行動生理学(C2)(前神経情報統合生理学、旧生理学第一)を担当させていただくことになりました。大講座制で、神経科学研究部門・高次脳機能学講座の領域です。どうぞ宜しくお願い申し上げます。当教室は、1907年当時の千葉医学専門学校に、酒井卓造先生が生理学の初代教授に就任され、以後、鈴木正夫教授、本間三郎教授、中島祥夫教授と歴任され、私が第5代教授を拝命いたしました。まことに身が引き締まる思いですが、第一生理学の伝統ある電気生理学に、これまで私が行ってきた分子生物学、認知行動科学の手法を加えて、新しい神経生理学の創造を行いたいと考えております。
私は、「心とは何か、心の動きは物理学理論で説明できるのか」という問いから、脳科学、神経科学を学ぶため、平成2年に本学医学部を卒業し、精神医学教室(佐藤甫夫教授、現名誉教授)に入局いたしました。千葉県救急医療センター集中治療科を含む研修の後、分子生物学を身につけるため、平成5年に大学院(内科系精神医学)に進み、現在の分子ウィルス学講座(当時の微生物学第一教室:清水文七教授、現名誉教授)にて白澤浩先生(現教授)に、直接御指導をいただく幸運を得ました。そこで、神経細胞の分化に関する癌抑制遺伝子の研究、統合失調症の動物モデルを用いた発現変化遺伝子のクローニング、人間の性格と遺伝子多型の研究を行いました。その後、米国の東海岸のプリンストン大学分子生物学科のJoe Z. Tsien教授のもとへ約2年半留学しました。当時のJoe Tsien教授は、コロンビア大学のEric R. Kandel教授(精神科出身でアメフラシの研究で有名)とマサチューセッツ工科大学(MIT)の利根川進教授(免疫から脳研究に移られた)、二人のノーベル賞受者のラボで、続けて大きな仕事をして、自分の教室を持ったばかりの新進気鋭で、私が第一号のポスドクでした。そこで、記憶と学習能力を増強させた「天才マウス」を作ることに成功するなど、遺伝子改変動物を用いた学習・記憶の分子メカニズムに関する一連の研究を行って参りました。平成12年に帰国し、本学精神医学教室の伊豫雅臣教授、橋本謙二先生(現千葉大学社会保健教育研究センター病態解析研究部門教授)のご指導のもと、助手、講師、助教授として、精神疾患の生物学的マーカーに関する研究や遺伝子改変動物を用いた研究を続けて参りました。臨床でも、パニック障害や強迫性障害などの不安障害の専門外来を担当し、学習理論に基づいた認知行動療法というエビデンスに基づく精神療法を導入し、顕著な治療成績を収めることができました。
今後めざす研究のキーワードとして、「情報化社会における脳の健康」があります。高度情報化社会=ストレス社会において、脳が適切な情報処理能力を常時発揮できる状態の維持、すなわち「分子レベルでのメンタルヘルス」が重要であります。新技術による画像・生理検査を駆使して、「脳機能」を解明し、「情報過負荷による脳障害」の早期発見・早期治療を目指し、ITとともに進化し続ける新世紀の人類を支える医学の発展に貢献したいと考えています。さらに、生理学は非常に幅の広い分野でありますので、様々な機会に、各領域の専門家であられる「いのはな同窓会」の会員の皆様から、考えるヒントをいただき、新しい学問の創造につなげ、少しでも千葉大学に貢献できればと考えております。今後とも、なおいっそうのご指導ご鞭撻の程、どうぞ宜しくお願い申し上げます。
千葉大学大学院医学研究院 認知行動生理学
教授 清水 栄司
※この文章は千葉大学医学部同窓会 いのはな同窓会会報に掲載させていただいたものです。
1990年3月 | 千葉大学医学部卒業 |
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1990年6月 | 千葉大学医学部附属病院にて精神科医として勤務 |
1997年3月 | 千葉大学大学院医学研究科博士課程(内科系精神医学)修了 |
1997年10月 | 客員研究員(米国プリンストン大学分子生物学講座)(2000.6まで) |
2005年7月 | 千葉大学助教授大学院医学研究院(精神医学) |
2006年3月 | 千葉大学教授大学院医学研究院(神経情報統合生理学(現認知行動生理学)) |
2011年4月 | 千葉大学子どものこころの発達研究センター センター長 |
医師、医学博士、精神保健指定医