21世紀は脳とこころの世紀と呼ばれ、TVや新聞では、子どものこころ、認知症、うつ病、自殺予防、精神鑑定、スポーツ精神医学、いじめ問題などといった言葉を毎日のように目にします。最後のフロンティアといわれている「脳とこころ」に注目が集まり、また社会からの精神科医療に対するニーズがますます高まってきている中、「千葉大学精神医学教室」では様々な特色のある研究・教育の取り組みを行っています。また「子どものこころの発達教育研究センター」「社会精神保健教育研究センター」「認知行動生理学教室」と連携し、豊かな人材のもと、幅広い分野で教育・研究を行っていることもその特徴です。
脳科学に興味のある方、社会問題に精神科医療から切り込んでいきたいという方へ、以下に実際に精神医学教室の教官や大学院生が取り組んでいる先進的な研究内容の一端をご紹介致します。
「子どものこころの発達教育研究センター」では子どもに対する認知行動療法の臨床研究、分子モデル研究、脳機能解析研究を行っており、学校現場との連携での予防と治療のシステム研究、乳幼児の社会認知発達研究も盛んです。「社会精神保健教育研究センター」では様々な精神疾患の疫学、生化学、遺伝学、脳機能画像を用いた病態研究や司法精神保健に関する教育・研究を行っていますし、「認知行動生理学教室」では、認知行動療法を中心に不安・恐怖の分子メカニズムや脳機能画像による脳機能解析と病態解明を目指した研究を行うなど多方面での研究・教育に取り組んでおります。詳細については各ホームページへのリンクからご覧になって下さい。
・子どものこころの発達教育研究センター
・社会精神保健教育研究センター
・認知行動生理学教室
新型コロナウイルス感染症対策として、学校の休校やイベントの中止が相次ぐ中、
子どもや大人の心身に大きな影響が出てきています。
長期的な対策が予想されており、ストレスとの上手な付きあい方が大切です。
子どもの保護者や養育者、一般の人たち向けに、ストレス対処のポイントをまとめました。
こちらのPDF資料【保護者向け】・【一般向け】をご利用ください。なお、本資料はWHO(世界保健機関)の資料を参考にして作成しています。
その他、精神医学教室の教官や大学院生が取り組んでいる先進的な研究内容の一端をご紹介致します。
これら以外にも、「子どものこころの発達教育研究センター」では子どもに対する認知行動療法の臨床研究、分子モデル研究、
脳機能解析研究を行っており、学校現場との連携での予防と治療のシステム研究、乳幼児の社会認知発達研究も盛んです。
「社会精神保健教育研究センター」では様々な精神疾患の疫学、生化学、遺伝学、脳機能画像を用いた病態研究や
司法精神保健に関する教育・研究を行っていますし、「認知行動生理学教室」では、認知行動療法を中心に不安・恐怖の
分子メカニズムや脳機能画像による脳機能解析と病態解明を目指した研究を行うなど多方面での研究・教育に取り組んでおります。
詳細については各ホームページへのリンクからご覧になって下さい。
※以下研究の各タイトルは正式名称とは異なります。
統合失調症患者には発病後進行性の経過を辿り、いかなる薬物にも反応しない治療抵抗性を有する方がいます。このような状態を有する方の背景の一部に、多剤併用療法によるドパミンD2受容体の過感受性に関連した精神病が関与していると考えられています。我々はそのような患者さんの病態を動物・遺伝子研究にて追求すると共に、ドパミン過感受性精神病の病態特性とRLAI(risperidone long acting injection:リスパダールコンスタ)の薬効動態特性を考慮し、治療抵抗性の特性を有する方にRLAIを用いた治療を行うことにより、ドパミンD2受容体の過感受性が改善されると推測し治療効果を検証しております。千葉大学病院と関連する8施設にご協力を頂いた多施設共同研究です。
精神疾患に対する経頭蓋磁気刺激療法は磁場を脳に当てることにより磁場周囲に2次電流が発生することにで、効果が発現すると推定されています。ところが現在のところ、与える磁場の刺激部位、刺激強度、刺激頻度、刺激回数など、どの疾患においても確立されたものはなく、研究者間で大きく異なり、結果としてどの方法が最も有効かとのコンセンサスは得られていません。我々は、ある特定のプロトコールを用いると治療抵抗性幻聴が改善されると推測しています。本研究は無作為化プラセボ対象二重盲検試験です。
治療抵抗性統合失調症の定義は大まかにいえば2種類の抗精神病薬を十分な量投与しても反応が得られない患者を言うが、病態により分類ができるのではないかと考えておりその頻度を探る研究をしております。
スマートフォンなどのモバイル端末とインターネットを用いて統合失調症の再発を早期の段階で検出し、既存の訪問看護を組み合わせることで効果的な再発予防法(CIPERS)を開発しています。現在、地域の精神科医療は大きな変革期を向かえています。自由な発想のもと、IT技術を積極的に用いることで新しい形の地域医療をリードしていこうというエキサイティングな分野です。
統合失調症に使用される抗精神病薬による治療は一般的に長期に及ぶことが多く、骨粗鬆症を引き起こしやすくする可能性があると以前から言われています。一方で抗精神病薬はそれぞれ異なる作用機序を有しています。本研究では、薬剤条件を揃えて調べることで作用機序の異なる各種抗精神病薬が及ぼす骨への影響を調査することでそれぞれの患者さんに対して最適化された治療を提供することを目指しています。
代表的な精神疾患である統合失調症の病態生理において、酸化ストレスの関連が示唆されています。我々は抗酸化物質の一つであるスルフォラファンの追加投与による統合失調症の治療効果についてオープン試験を実施中です。
うつ病の治療・研究ではこれまで、どちらかというと「気分の落ち込み」などに注目が集まっていましたが、実際には集中力・記憶力の低下などの認知機能障害を訴える方も多く、我々は認知機能障害の重要性に目を向けています。認知機能障害と生活の質との関係や、血中タンパク質との関係を調べ、うつ病における認知機能障害の重要性やメカニズムを明らかにすることを目指しています。
現在うつ病の病態仮説としてセロトニン仮説が唱えられていますが、一方で、うつ病に身体的な症状が多く出現したり、C型肝炎のインターフェロン治療などでも高い割合でうつ状態が引き起こされることが知られています。そこで、うつ病に脳内の炎症機序が関係しているのではないかという仮説に基づき、炎症性バイオマーカー検査や脳PET検査を用いてその関係を調べています。世間ではうつ病や自殺といった話題が注目を集めていますが、これにより、うつ病に対する新たな診断方法や治療方法を確立することを目指しています。
主任研究者:小林欣夫(千葉大学大学院医学研究院循環病態医科学教授)
不整脈から心血管イベント(心筋梗塞等)を起こした患者はうつ病を患いやすいとされています。他方、不整脈による心血管イベントを未然に防ぐために埋め込み式除細動器が開発されていますが、この除細動器は誤作動を起こすこともあり、使用している患者が不安や抑うつを強めるおそれもあります。我々は当院循環期内科と協働して、除細動器の利用と不安・抑うつとの関係を明らかにしていきます。
近年の日本においては、「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察に関する法律(医療観察法)」や「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律(裁判員法)」の施行等、司法精神保健の関係する分野での制度改革が次々に行われています。しかしこれらの変化を当の精神障害者がどのように捉えているかについての調査はほとんど行われておりません。我々は精神科に通院中の患者に対するアンケート調査を通じて、患者・家族の多くは現行の精神医療制度を概ね肯定的に評価していること、精神医学に関するさらなる情報提供を望んでいること等を明らかにしました。
精神障害者の司法精神医学に対する認識に関する研究(現在投稿中)
日本において未だ確立されたとは言えない司法精神医学分野に関して、初学者向けの研修会を実施することによる教育効果、及び参加者のモチベーションや問題意識の向上について検討しました。その結果、新たな教育モデルに基づく研修内容の策定が初学者の関心を引きつける可能性があることが明らかになりました。
The Effect of a New Educational Model on the Motivation of Novice Japanese Psychiatrists to enter Forensic Psychiatry.
http://www.mededworld.org/MedEdWorld-Papers.aspx?page=2
分担研究者:吉住昭(国立病院機構花巻病院前病院長)
「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(精神保健福祉法)」に基づく措置入院の、千葉県内での運用実態を調査するとともに、医療観察法の施行に伴いその運用がどのように変化したのかについて、県下の精神科医師に対するアンケート調査を行いました。その結果、千葉県では措置通報件数が多く措置診察実施割合が低いこと、診察結果の信頼性は比較的高いこと、医療観察法の施行に伴い措置入院の運用実態の変化は実感されていないこと、多職種チームを意識する機会が増えてきたこと等が明らかとなりました。
分担研究者:平田豊明(千葉県精神科医療センター長)
医療観察法における鑑定入院制度の適正な運用を促すため、鑑定入院での処遇において特に吟味すべき項目を抽出し、鑑定入院対象者経過報告書としてまとめました。今後はこの報告書の提出と批判的吟味に基づく制度運用の適正化のための方策を検討する予定です。
日本では酩酊下で行われた犯罪についての精神鑑定ではドイツのBinder氏の策定した分類法を用いることが多いのですが、Binder氏の分類は世界的にはあまり利用されていません。我々は日本の裁判例を解析して、酩酊犯罪における責任能力の論点を明らかにしました。
Beyond Binder: Determination of Criminal Responsibility while in a State of Drunkenness by Japanese Courts
分担研究者:五十嵐禎人(千葉大学社会精神保健教育研究センター法システム研究部門教授)
医療観察法に規定される鑑定入院は、「鑑定その他医療的観察」を目的としているため、有用性に関する指標が未だ明らかになっていません。我々は未来予測などに用いられる研究手法であるデルファイ法を活用して、鑑定入院のアウトカム指標の定量化を試みます。
分担研究者:伊豫雅臣
医療観察法制度においては、全国の保護観察所に社会復帰調整官を配置し、国の責任で対象者への医療提供を行います。その一方で、日本の精神医療には地域間格差が激しく、実際の臨床場面では地域特性に配慮した対応を求められます。我々は全国の主立った指定医療機関をweb回線で接続し、医療観察法制度運用の改善や、関係機関同士の情報共有について議論を深めていきます。
医療観察法が施行されてから、日本の各所で司法精神医学に関する研修会が行われるようになりました。しかし多くの精神科医師にとって司法精神医学は未だ縁遠い存在であり、もしくは敬遠されているのが現状であるようです。我々は全国規模のアンケート調査を行い、精神科医師の司法精神医学に対する認識は法施行前後の3年間で何ら変わっておらず、日本に司法精神保健の考え方を根付かせるためには特別なアプローチが必要であるとの仮説を立てました。
No change of Attitude toward Forensic Psychiatry: 5 Years after the Medical Treatment and Supervision Act in Japan.
http://www.scirp.org/journal/PaperInformation.aspx?PaperID=29638
1. 山崎史暁、佐々木剛、焼田まどか、岡東歩美、田邉恭子、橘真澄(2013)「治療抵抗性統合失調症思春期女児に対しクロザピンが奏効した一例」日本児童青年精神医学会 第54回総会
2. 焼田まどか、岡東歩美、橘真澄、佐々木剛(2012)「社会恐怖を合併した思春期統合失調症男児に対する認知行動療法的アプローチ」日本児童青年精神医学会 第53回総会
3. 山内厚史、田野彩、田邉恭子、岡和田景子、吉野晃平、畑達記、洪勝男、金原信久、佐々木剛、椎名明大、藤崎美久、中里道子、伊豫雅臣(2011)「Ⅱ型双極性障害を疑わせた女児」第18回 千葉児童思春期精神医学会
4. 佐藤愛子、佐々木剛(2011)「3年間確定診断のつかなかったナルコレプシーの12歳男児の一例」日本児童青年精神医学会 第52回総会
5. 細田豊、佐々木剛(2011)「パニック障害の既往の無い広場恐怖に対する認知行動療法的アプローチ〜12歳男児の症例〜」日本児童青年精神医学会 第52回総会
6. 沖田恭治、斉藤歩美、岡東歩美、半田聡、佐々木剛、中里 道子(2011)「思春期男児の持続性身体表現性疼痛障害に対する認知行動療法的アプローチ」日本児童青年精神医学会 第52回総会
7. 久能勝、佐々木剛、中里道子(2010)「末期がん患児に対するリエゾン・コンサルテーション」日本児童青年精神医学会 第51回総会
8. 鈴木純子、高橋純平、三田朋美、田邊恭子、田野彩、石川真紀、佐々木剛、中里道子(2009)「千葉大学医学部附属病院こどものこころ診療部外来の現状」日本児童青年精神医学会 第50回総会
9. 高橋純平(2009)「ひきこもりと強迫症状を主訴に受診が難渋した17歳男児の症例」日本児童青年精神医学会 第50回総会
1. Decreased Levels of Serum Brain-Derived Neurotrophic Factor in Male Pediatric Patients with Depression (Sasaki et al ;The Open Clinical Chemistry Journal, 2011, 4, 28-33 ) うつ病の男児は、健常群と比較し有意に血清BDNF値が低かった
2. Ifenprodil for the Treatment of Flashbacks in Adolescent Female Posttraumatic Stress Disorder Patients with a History of Abuse(Sasaki et al; Psychotherapy and Psychosomatics, 2013, 82:344–345)思春期女児心的外傷後ストレス障害のフラッシュバック症状に対するイフェンプロジルによる治療
3. Tipepidine in children with attention deficit/ hyperactivity disorder: a 4-week, open-label, preliminary study (Sasaki, et al; Neuropsychiatric Disease and Treatment ,2014, 10, 147–151) 注意欠如多動性障害に対するチペピジンヒベンズ酸塩の治療効果に関するオープン試験
4. Tipepidine in adolescent patients with depression: a 4-week, open-label, preliminary study (Sasaki, et al; Neuropsychiatric Disease and Treatment ,2014, 10, 719–722) 思春期うつ病に対するチペピジンヒベンズ酸塩の治療効果に関するオープン試験
千葉大学大学院医学研究院精神医学では、「感染症流行(エピデミック)と不安及び感染防御行動に関する調査」を行っています。今後の感染症流行への対策に役立てることを目的に、千葉大学病院に来院された受診者及び同伴者、千葉大学医学部学生を対象としたアンケート調査と、インターネットを介した一般の人たちを対象としたWEBアンケート調査をお願いしております。
詳しい資料はこちら
同じ病気・同じ薬でも、人によって効果や副作用の出方が違うことは”精神科医療でも”よくあります。最近の遺伝子研究の進歩により、薬の効き方の個人差には遺伝子の関与が大きいことが分かってきました。薬と遺伝子の関係を調べる学問を薬理遺伝学(ファーマコゲノミクス、PGx)と呼びます。精神科治療の中の薬物療法に関して個別化医療(テーラーメイド医療)ができれば、より効果的で安全な治療を患者さんに提供できると考えております。
がん患者さん対象の研究は医師主導でしか行えない事も有り、現在多くの患者さんに実際は使用されている睡眠薬も安全性は実証されていません。せん妄など副作用リスクもある中で、安全に患者さんの苦痛を取り除ける薬剤の検証やその他の精神科領域の研究を行いたいと思っています。
主任研究者:樋口佳則(千葉大学医学部附属病院脳神経外科助教)
薬剤抵抗性のパーキンソン病に対する脳深部刺激療法が注目を集めています。我々は千葉大学医学部附属病院脳神経外科、同神経内科と協働して、この治療法の効果とそれに伴う精神状態の変化について調べています。
児童思春期の気分障害と注意欠陥多動性障害などの病態解明および新しい診断法(バイオマーカーの探索など)、治療法の開発に関する研究を進めています。また児童思春期の精神療法には遊戯療法と認知行動療法を取り入れ、日本のこどもに則した方法に修正し、その技法を習得し、普及させていくための研究を進めています。