病態解析研究部門
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ご挨拶

 当研究室は、統合失調症を中心とした精神疾患の病態の理解、治療法の追及、社会復帰の支援をメインテーマとして掲げています。

 私は千葉大学精神神経科に入局してからこれまで、精神科の臨床医として様々な患者さんの悩みと向き合い、なかでも統合失調症に苦しむ方々の力になれればという思いで研究を続けてまいりました。統合失調症は思春期後半から前青年期にかけて、幻覚や妄想症状の顕在化と共に発病します。発病前に数年間に何らかの精神変調に悩まされ、引き籠りなどの行動変化を伴います。発病し治療が開始となると、ここからある程度長い期間の薬物療法と休息が必要で、さらにその後医療スタッフや福祉支援者のサポートを得ながら、ゆっくりと社会復帰を目指すこととなります。

 2000年以降、統合失調症の治療薬である抗精神病薬の種類は少しずつ増えてきており、また脳科学領域の研究の進歩もあり、統合失調症の病態理解や薬物療法の在り方は変貌を遂げてきました。しかし今日でも、治療によってもなお深刻な症状に悩まされる患者さんも多く、社会復帰のプロセスに大きな壁がある状況にあります。また途中で再発を経験する患者さんも少なくなく、長期に渡る治療継続にもまだまだ課題が多い疾患です。

 我々は精神科臨床を実践していく中で、精神疾患をあらゆる観点から理解することがとても重要であるという立場のもと研究を行っています。脳科学や精神医学の領域で主流となっている基礎研究や遺伝子研究・脳画像研究への関心に止まらず、患者さんの個別性や心理的な問題にも関心をもち、最終的には患者さんに還元できる研究を展開していきたいと考えています。

 

千葉大学社会精神保健教育研究センター

病態解析研究部門 教授 金原 信久

 

 

研究テーマ

2024年度現在の主な研究テーマ

1. 治療薬による統合失調症長期経過への影響

抗精神病薬の多剤併用や長期使用によって形成されるドパミン過感受性は、患者さんの長期経過に大きな影響を与え得ると考えて、研究を進めています。これまで実臨床におけるドパミン過感受性精神病の出現頻度などの実態を地道に調査して来ました。現在は抗精神病薬が脳内で引き起こす現象を理解するため、動物実験やMRI画像研究を進めています。

 

<直近のpublication>

  • Kanahara N, Yamanaka H, et al. The effects of cumulative antipsychotic dose on brain structures in patients with schizophrenia: Observational study of multiple CT scans over a long-term clinical course. Psychiatry Res Neuroimaging. 2022; 319: 111422. 論文を見る

 

2. 統合失調症薬物療法

各抗精神病薬の作用(クロザピン・持効性注射剤・ドパミン部分作動薬)を最大限に引き出すため、治療薬の選択法、患者さんとの協働作業としての意思決定、有効・無効の効果関連因子の検証、リスクの少ない安全な切替方法などについて、長期的予後を見据えて研究を行っています。

また既存の抗精神病薬による治療による、ドパミン過感受性形成の予防・制御・克服ついても関心を持ち研究しています。

・治療抵抗性統合失調症サブタイプ別のクロザピン反応性に関する後方視研究(精神神経科博士課程(M3)岡田和樹)

 

<直近のpublication>

  • Yamasaki F, Kanahara N, et al. Can brexpiprazole be switched safely in patients with schizophrenia and dopamine supersensitivity psychosis? A retrospective analysis in a real-world clinical practice. J Psychopharmacol. 2023; 37(10): 992-1002. 論文を見る

  • Masumo Y, Kanahara N, et al. Dopamine supersensitivity psychosis and delay of clozapine treatment in patients with treatment-resistant schizophrenia. Int Clin Psychopharmacol. 2023; 38(2): 102-109. 論文を見る

  • Kogure M, Kanahara N, et al. Long-Term Treatment With Long-Acting Injectable Antipsychotic in Schizophrenia Patients With and Without Dopamine Supersensitivity Psychosis: A 6-Year Retrospective Comparative Study. J Clin Psychopharmacol. 2022; 42(4): 357-364. 論文を見る

 

3. 重症副作用の研究

抗精神病薬治療中に生じる遅発性錐体外路症候群(ジストニア・ジスキネジアなど)を対象としています。

 

<直近のpublication>

  • 金原信久, 伊豫雅臣. 遅発性ジスキネジアの病態仮説. 臨床精神薬理. 2023; 26(1): 27-35. 

  • Kanahara N, Nakata Y, Iyo M. Genetic association study detected misalignment in previous whole exome sequence: association study of ZNF806 and SART3 in tardive dystonia. Psychiatr Genet. 2021; 31(1): 29-31. 論文を見る

 

4. 統合失調症の生物学的研究

治療抵抗性や難治化に関わる因子の研究を行っており、患者さんからご提供頂いた血液試料を用いて様々な物質の測定や遺伝子解析を行っています。

・精神神経疾患の病前逆境体験と難治化に関与する疾患横断的血液マーカーの探索(精神神経科博士課程(M2)早津龍之介)

・遺伝子解析(精神神経科博士課程(M3)岡田和樹)

 

<直近のpublication>

  • Kogure M, Kanahara N, et al. Association of SLC6A3 variants with treatment-resistant schizophrenia: a genetic association study of dopamine-related genes in schizophrenia. Front Psychiatry. 2024; 14: 1334335. 論文を見る

  • Goh KK, Kanahara N, et al. The impact of childhood trauma exposure on social functioning in schizophrenia: the moderated mediation role of oxytocin and oxytocin receptor gene polymorphisms. Psychol Med. 2023:1-13. 論文を見る

  • Kanahara N, Nakamura M, et al. Are serum oxytocin concentrations lower in patients with treatment-resistant schizophrenia?: A 5-year longitudinal study. Asian J Psychiatr. 2022; 76: 103157. 論文を見る

 

5. 統合失調症の心理教育研究

統合失調症患者さんの回復過程におけるself-stigmaを切り口とした多施設共同研究を進めています。

 

 

統合失調症以外にも、臨床で未解決である重要なテーマに関しては、果敢に取り組む方針です。

上記は、千葉大学精神神経科・千葉県内の精神科医療機関の先生方と共同で進めています。また研究を進めるにあたり、千葉大学医学部の他の研究室の先生方にも助言や指導を頂きながら進めています。

 

 

大学院生募集

当研究室で小さな研究室ですが、意欲あふれる大学院生(修士課程・博士課程)を募集しています。

条件に拠りますが、社会人入学の方も受付可能です。

また共同研究や講師依頼についても、下記メールよりご連絡ください。

E-mail:cfmh-jim◆office.chiba-u.jp(メールを送る際は◆を@に変えてください。)