千葉大学大学院医学研究院
呼吸器内科学
千葉大学病院
呼吸器内科
1 間質性肺炎とは?
肺は鼻や口から吸った空気の中に含まれる酸素を血液へと取り込み、不要となった二酸化炭素を体の外に出す働きをする臓器です。吸った空気は、肺の一番奥にある「肺胞」という場所に運ばれ、肺胞を取り囲むように流れる毛細血管との間で酸素・二酸化炭素のやり取り(ガス交換)をしています。
一般的に肺炎と言うと「細菌性肺炎」のことを指します。口や鼻から入った細菌が気管支や肺胞の中で増殖すると、それに対抗するため自分自身の免疫細胞が攻撃します。その攻撃の影響は侵入した細菌だけではなく、周囲の正常な組織にも及びます。これを「炎症」と呼びます。「細菌」による「肺」における「炎症」、これが「細菌性肺炎」です。
一方で、「間質性肺炎」は肺の「間質」で起こる「炎症」を指します。「間質」とはいったいどこなのか、なかなかイメージがわきにくいと思います。広い意味で「間質」とは、肺胞や気道(空気の通り道)以外の肺の組織全体を指します。つまり「間質性肺炎」は特定ひとつの病気を指すものではなく、肺で起きるさまざまな炎症性疾患を幅広く指すものなのです。間質性肺炎はその原因や病気の性質によって何十種類に細かく分類されていますが、多くは間質に炎症をおこすことで、肺胞と毛細血管の間の壁(肺胞壁)が厚く硬くなり、ガス交換ができにくくなってしまいます。
2 間質性肺炎の分類
間質性肺炎(間質性肺疾患)の分類としてガイドラインには以下のようなさまざまな病気が挙げられています。これをみてわかることは、間質性肺炎には多くの病気が含まれているということです。
この図は、専門的な分類なのでわかりやすく分類し直すと、大きく5つに分類できます。
原因をつきとめることは間質性肺炎の診療においてとても重要です。原因によって治療が大きく異なるからです。例えば、薬が原因の間質性肺炎であれば、原因となっている薬をやめることが治療になります。かびが原因であればマスクを着用したり部屋の掃除をしたりすることが治療になるからです。原因を調べるために、詳しい問診と血液検査によるスクリーニング検査(拾い上げるという意味)を行います。
3 間質性肺炎の症状と自然経過
間質性肺炎の特徴的な症状としては、労作時呼吸困難(歩行など日常動作での息苦しさ)と乾性咳嗽(痰を伴わない咳)になります。原因が特定できない「特発性間質性肺炎」の場合、初期には症状はありませんが、症状は長年かけて出現・次第に進行していきます。しかしながら、病状の進行の程度は人それぞれであり、進行がほとんどみられない方もいます。
※急性増悪
経過中に急激に肺胞壁の線維化が悪化することがあり、急性増悪と呼ばれます。かぜやストレスなどを契機として起きることが報告されていますが、なかには原因なく起きる場合もあります。原因不明の特発性間質性肺炎の中で最も頻度の高い特発性肺線維症の場合では、年間5-10%の方に起こるとされています。
急性増悪によって呼吸機能が一段階低下する可能性があります。速やかな対応(酸素やステロイド薬などの投与)を行わないと命に関わる事態になることがあるので注意が必要です。
4 間質性肺炎の治療
間質性肺炎はひとつの病気ではないことはすでに説明しました。間質性肺炎のなかでどのタイプの間質性肺炎なのかによってとるべき治療方針が変わってきます。したがってある程度の詳しい検査を行うことが治療方針を決める上で大切になります。
一部の感染症や薬剤が原因の間質性肺炎を除き、ほとんどの間質性肺炎は現在の医学では治癒できません。「治癒」とはそれ以上治療を行わなくても、完全に治ることを意味します。つまり、少なからず病気と付き合っていく必要があるのです。ただ、治癒はできなくても、薬によって健康な方の肺に近い肺の状態を保つ(寛解)ことができる方もいます。一方で、最善の治療を行っても徐々に進行してきてしまう方もいます。まずは自分の病気のことをしっかりと知ることが大切です。
薬による治療ももちろん大切なのですが、それ以上に日常生活の管理も大切です。具体的には、「禁煙」「風邪の予防」「栄養管理」「運動」などが挙げられます。
咳、痰、呼吸困難などの自覚症状がある場合、程度に応じて鎮咳薬(せき止め)・去痰薬(たん切り)の投与や在宅酸素療法などの対症療法を行います。
「原因がある間質性肺炎」の場合、その原因に対する治療が優先されます。関節リウマチや多発性皮膚筋炎などの膠原病(自己免疫疾患)を原因とする間質性肺炎に対してはステロイド薬や免疫抑制薬の効果が期待されます。粉塵(ほこり)やカビ・ペットの毛・羽毛などの吸入、薬剤、健康食品などが原因となっている(可能性がある)場合、それらを避けることで改善がみられることがあります。特殊な感染症によって起きている場合は感染症の治療を行います。
原因が特定できない特発性間質性肺炎は、病理組織学的な立場からさらに細かく分類されています。それにより治療法が異なりますので治療にあたっては正確な診断をつけることが重要です。臨床経過や血液検査、レントゲン・CT検査の所見、気管支鏡や手術による細胞検査・組織検査によって、治療法を決定します。特発性間質性肺炎のうち「特発性肺線維症」であれば抗線維化薬(ピルフェニドン、ニンテダニブ)が第一選択となります。それ以外の特発性間質性肺炎に対しては各種検査結果に応じて抗炎症薬(ステロイド、免疫抑制剤)か抗線維化薬か(場合によっては両者の併用)を選択します。間質性肺炎は一度進行すると不可逆性であることが多いため早期の治療が望まれます。しかし中には、無治療によっても病状が進行しないものもありますので、全ての患者さんで治療を必要とするわけではありません。また、治療薬はいずれも副作用があり、費用も高いため、治療の選択は現在の年齢、元気さ、他の臓器の状態、病状の進行具合、各種検査結果、副作用などを勘案して総合的に決定します。
<主な間質性肺炎治療薬の特徴と副作用> ※( )内は臨床試験での頻度です。実際にはもっと低いです。
ピルフェニドン(ピレスパ®): 光線過敏症(50%)、食思不振・嘔気・胃部不快感(30%)、肝機能障害(20%)、
ニンテダニブ(オフェブ®): 下痢(70%)、肝機能障害(30%)、食思不振(15%)、出血・血栓傾向、創傷治癒遅延
ステロイド(プレドニゾロン): 易感染性、糖尿病、骨粗鬆症、胃・十二指腸潰瘍、白内障・緑内障、肥満、皮膚色素沈着、血栓症、筋力低下
免疫抑制剤(シクロスポリン、タクロリムス): 易感染性、肝機能障害
ムコフィリン(吸入薬): 気管支攣縮(呼吸困難)(5%未満)、口腔内の苦み
5 医療費の補助制度について
間質性肺炎の治療薬である抗線維化薬(ピレスパ・オフェブ)は高額な薬です。また在宅酸素療法も月々数万年程度の自己負担が必要になります。間質性肺炎に関連する医療費補助制度をご紹介します。こちらの情報は自治体や申請する時期によっても違っていることがありますので、詳しくは通院中の医療機関の医療相談室やお住まいの居住地の区市町村役場や保健福祉センターで聞くことをお勧めします。
6 主な担当者紹介
安部光洋:https://researchmap.jp/mthr1983
川﨑剛:https://researchmap.jp/kawatake
北原慎介
堀内大
7 患者さん向け勉強会のお知らせ
31名の方々の参加をいただき無事開催いたしました。
アナウンスができなかった方、都合が悪かった方、申し訳ございません。
参加できなかった方のために資料を公開いたします。
本ページは、ちば県民保健予防基金事業助成金を受けて作成しております。