千葉大学大学院医学研究院
脳神経外科学
千葉大学病院
脳神経外科
千葉大学医学部附属病院 脳神経外科
樋口 佳則
三叉神経痛は、他の脳神経外科疾患と違って命に関わる病気ではありませんが、患者さんにとっては機能的障害を来し、生活の質を落とす疾患です。この章では、病気の機序、症状、治療法について解説します。
脳神経は、脳幹からで出て、頭蓋骨にある小さな穴(三叉神経は三叉神経圧痕を経由して上眼窩裂、正円孔、卵円孔)を通って頭蓋骨の外に出て行きます。三叉神経が脳幹から出る部分で血管により圧迫されることで生じる病気です(図1)。
神経にはミエリンという鞘があります。これは、電気コードでいえば電線の周りに被覆されているビニールに当たります。脳幹付近の脳神経に中枢性ミエリン(傍突起細胞)から末梢性ミエリン(シュワン細胞)へ移行する部分があり、最も脆弱な部分といわれています。この部分が慢性的に拍動する血管により圧迫されて生じるといわれています。圧迫する原因は、血管だけではなく、まれですが脳腫瘍などにより生じることがあり、治療を開始する前に鑑別診断が必要です。
特徴的な症状から診断は可能ですが、鑑別診断を行う必要があること、またどのような血管が圧迫に関与しているかを調べるための検査が必要です。そのため、MRI検査が必須となります。T2強調画像などの脳組織と髄液のコントラストがよい画像は、三叉神経や顔面神経に接する血管を写し出すことができます。また、腫瘍などの病変の存在が疑われる場合には、造影剤を用いたT1強調画像を撮像することが必要です。
三叉神経の各分枝、または全領域に突発的に激痛、電撃痛が生じます。痛くなる部分は、頬と下顎の部分(V2、V3領域)によく見られます。痛みの持続時間は比較的短く数秒後には消失し、痛みが出現するきっかけとなる誘発帯(Trigger point)があります。 顔を洗う、歯を磨くなどの行動がきっかけとなって痛みが生じ、日常生活に支障を来します。ひどい場合には食事の摂取が困難となることもあります。
三叉神経痛と似た症状を来す疾患として、帯状疱疹由来の三叉神経痛などがあり、医師による診断が必要です。
内服治療として抗てんかん薬であるカルバマゼピン(テグレトール)が高い効果を示します。高齢の方ですと副作用としてふらつきが問題となることがあります。その他の抗てんかん薬(バルプロ酸ナトリウム、フェニトイン)も使われることがあります。
三叉神経に直接局所麻酔薬、神経破壊薬を注射して痛みをとる三叉神経ブロックという方法があります。この方法では、痛みは楽になりますが、同時にしびれ感が生じます。
これらの治療でも痛みのコントロールが不良な場合、また、眠気、ふらつきなどにより服薬の継続が困難な場合には、手術が勧められます。
三叉神経痛の症状のある側の耳の後の皮膚を切開し、後頭下に開頭を行います。微小血管減圧術は、顕微鏡を用いて神経を圧迫している血管を移動させ減圧する手術法です。1970年代より始められた手術法で、80~90%で長期的な効果が期待できます。顕微鏡で圧迫血管の周囲を観察すると、血管により神経、脳幹に圧迫痕が認められることもあります。片側顔面けいれんと三叉神経痛に対しての手術は開頭部位が異なりますが、神経を圧迫している血管を移動し、元に戻らないようにテフロンなどの人工物を利用し固定する点で共通しています。
ガンマナイフは、コバルトから出る放射線を1点に集中させ照射する定位的放射線治療装置で、転移性脳腫瘍、頭蓋内腫瘍や動静脈奇形の治療に効果を発揮します。三叉神経に高線量の放射線を集中して照射することにより、三叉神経痛の症状を改善させる治療法です。現在、保険適応は認められていません。高齢者や手術のリスクが高い症例で検討される方法です。
微小血管減圧術後は、一般の開頭術と同様に、術後出血、感染に対する注意が必要です。脳幹周囲の手術ですので三叉神経そのものの症状(顔面のしびれ)や周囲の脳神経(顔面神経障害による顔面神経麻痺、聴神経障害による難聴、下位脳神経障害による嗄声、嚥下障害)を来すことがありますがまれです。
千葉大学医学部附属病院 脳神経外科
樋口 佳則
片側顔面けいれんは、他の脳神経外科疾患と違って命に関わる病気ではありませんが、患者さんにとっては機能的障害を来し、生活の質を落とす疾患です。この章では、病気の機序、症状、治療法について解説します。
脳神経は、脳幹からで出て、頭蓋骨にある小さな穴(内耳道)を通って頭蓋骨の外に出て行きます。顔面神経が脳幹から出る部分で血管により圧迫されることで生じる病気です(図1)。
神経にはミエリンという鞘があります。これは、電気コードでいえば電線の周りに被覆されているビニールに当たります。脳幹付近の脳神経に中枢性ミエリン(傍突起細胞)から末梢性ミエリン(シュワン細胞)へ移行する部分があり、最も脆弱な部分といわれています。この部分が慢性的に拍動する血管により圧迫されて生じるといわれています。圧迫する原因は、血管だけではなく、まれですが脳腫瘍などにより生じることがあり、治療を開始する前に鑑別診断が必要です。
特徴的な症状から診断は可能ですが、鑑別診断を行う必要があること、またどのような血管が圧迫に関与しているかを調べるための検査が必要です。そのため、MRI検査が必須となります。顔面神経に接する血管を写し出すことができます。また、腫瘍などの病変の存在が疑われる場合には、造影剤を用いたT1強調画像を撮像することが必要です。
診断をより確実にするために、筋電図をとることが必要です。
一側の眼の周囲から始まり、眼輪筋の小さい単収縮が生じるようになり、徐々に片側の顔面全体に及んできます。しかし、病名からもわかるようにけいれんが両側に広がることはまれです。疲労・ストレス・緊張で増強し、ひどくなると開眼ができなくなるほど強い収縮になり、車の運転、新聞を読むなど日常生活に支障を来します。他に片側顔面けいれんと似た症状を来す疾患として、眼瞼攣縮 (blepharospasm)、口・下顎ジスキネジア、Meige症候群、顔面の部分けいれんなどがあり、医師による診断が必要です。
内服治療として、ストレス、緊張により増悪するのを防ぐため精神安定剤の服用、また抗てんかん薬の服用がありますが、なかなか奏功しないことが多いです。ボツリヌス菌により産生されるA型ボツリヌス毒素(ボトックス)をけいれんが生じている筋肉内に注射し、改善させる方法があります。この方法は、毒素の効果が切れる数ヶ月ごとに注入が必要で、根治的な治療ではありません。これらの方法でも、十分満足できる改善がみられない場合には、手術が勧められます。
片側顔面けいれんの症状のある側の耳の後の皮膚を切開し、後頭下に開頭を行います。微小血管減圧術は、顕微鏡を用いて神経を圧迫している血管を移動させ減圧する手術法です。1970年代より始められた手術法で、80~90%で長期的な効果が期待できます。顕微鏡で圧迫血管の周囲を観察すると、血管により神経、脳幹に圧迫痕が認められることもあります。神経を圧迫している血管を移動し、元に戻らないようにテフロンなどの人工物を利用し固定しています。
微小血管減圧術後は,一般の開頭術と同様に,術後出血,感染に対する注意が必要です.脳幹周囲の手術ですので顔面神経そのものの症状(顔面神経麻痺)や周囲の脳神経(聴神経障害による難聴,下位脳神経障害による嗄声,嚥下障害)を来すことがありますがまれです。