千葉大学大学院医学研究院
脳神経外科学
千葉大学病院
脳神経外科
自動車事故対策機構 千葉療護センター
内野 福生
PET(Positron Emission Tomography:陽電子放射断層撮影)は、ガン診療においては必要不可欠な検査となり、PETという言葉も広く知られるようになりました。この検査は、ポジトロン(=陽電子:プラスの電荷を帯びた電子)を放出する核種(放射性同位元素)で標識した薬剤を投与し、その体内の分布をカメラで撮影する診断法です。患者さんがうける検査としてはとても安全なものですが、大がかりな設備と多くの人員を要するため、すべての病院に設置できるものではありません。千葉療護センター(千葉市美浜区)では、平成19年にサイクロトロン、多目的合成装置とともに高性能のPET/CT装置を導入しました。現在、年間約1,000件程度の診療・検査を行っています。当院で使用できる薬剤としてFDG、メチオニン(MET)、フルマゼニル(FMZ)、アンモニアがあります。脳神経外科領域では、(1)脳腫瘍の診断・治療評価(FDG、MET)、(2)てんかんの術前評価(FDG、FMZ)にPET検査が利用されます。全身を一度に精査することも可能ですので、転移性脳腫瘍の診断においても威力を発揮します。
脳腫瘍の診断では、ブドウ糖とよく似た性質をもつ18F-FDG(フルオロデオキシグルコース)が保険適用です。悪性腫瘍ではブドウ糖をたくさん消費することを利用して診断を行います。しかし、正常脳ではFDGの取り込みが非常に多いため、悪性度の低い神経膠腫(脳原発の腫瘍)にはFDG集積が目立たない例が多くあります【図1】。
その欠点を補うため、11C‐メチオニン(MET)(保険未適用)を用いた脳腫瘍のPET検査も行っています。METは中性アミノ酸の一種です。脳腫瘍、特に悪性度の高い脳腫瘍(悪性神経膠腫)や、低悪性度でも乏突起膠腫(oligodendroglioma)では取り込みが亢進することが知られています。脳腫瘍の治療前評価や、化学療法中の効果判定、さらに放射線治療後の壊死か再発かの判定に有用です【図2】。
MET-PETは脳腫瘍の治療経過中の評価にも有用で、再発の有無を適切に評価することができます。MRIで病変が明らかでない病変をMETで指摘できることもあります【図3】。療護センターのPETデータは、ニューロナビゲータなどの手術機器とデータ連携することが可能であり、手術における切除範囲の同定に役立ちます。しかし保険適用でないため、全国でMET検査が可能な施設が限られています。詳細については、担当の先生とご相談していただくか、または当院までご連絡ください。
11C-フルマゼニル(FMZ)検査(保険未適用)では、てんかんの焦点を同定することが可能性です。 病変を広範囲に指摘できる、検出感度の高いFDG(保険適用)と、焦点の絞り込みが可能なFMZを併用することで、てんかん外科に役立つ情報を提供します【図4】。
千葉療護センターでは、患者さんの不安を少しでも軽減できるよう、PET部門専属のスタッフが 患者さんの検査を担当しています。PET薬剤を担当する専任の薬剤師や、核医学専門技師および核医学専門医が常駐しており、日本核医学会専門医教育病院として認定されております(平成24年1月1日~)。検査の際、単に保険適用の有無から薬剤を選択するのではなく、臨床的な有用性をまず優先して、どの薬剤を選択するか検討しています。当PET部門が開かれた専門施設として地域医療に貢献できるよう、すべての医療機関から検査予約が可能です(千葉療護センター HP)。(診療情報提供書およびPET検査説明書は、ダウンロードしてご利用ください。)