病気と治療

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胚細胞腫瘍

1. 胚細胞腫とはどのような腫瘍か?

千葉大学医学部附属病院 脳神経外科 助教 堀口 健太郎
千葉大学医学部附属病院 脳神経外科 助教 松谷 智郎

 胚細胞腫とは:10~30歳(ほぼ70%)の男性(児:70-80%)に多い腫瘍で、全脳腫瘍の3%、小児脳腫瘍では15%前後です。松果体部(60-70%)、神経下垂体部(30%)、基底核(5-10%)に多いのが特徴です。中には、松果体部と神経下垂体部の両方に発生する場合もあります。

 胚細胞腫にはいくつかの腫瘍型が含まれます。①ジャーミノーマ、②奇形腫、③卵黄嚢腫瘍、④絨毛癌、⑤胎児性癌、さらにこれらの要素が混合する⑥混合型胚細胞腫、の6つです。なかではジャーミノーマが最も多い型(60-70%)です。
症状:松果体部の腫瘍は中脳水道と呼ばれる細い脳脊髄液流通路を圧迫・閉塞させるために急性の脳圧亢進(頭蓋内圧亢進)をひきおこし、強い頭痛と意識障害がおこります。早期に治療をしなければ致命的にもなりかねません。神経下垂体部に発生した場合は、下垂体と呼ばれるホルモン産生中枢の機能が低下し、様々なホルモン異常が出現します。のどが渇き、水分を沢山飲み、排尿の回数が増える尿崩症や、16歳以上の女性では無月経がみられます。基底核発生腫瘍では、半身の運動麻痺や落ち着きのなさ、などが症状です。
治療:腫瘍型を問わず増大する性質の腫瘍ですので、何も治療を行わないと最終的には脳の機能を低下させ命を奪います。1990年頃までは手術と放射線治療が広く行われ、東京大学と北海道大学の脳神経外科から、共に100例を越す治療成績が発表され、胚細胞腫はその治療効果より、3つのグループに分けられることが判明しました。

ジャーミノーマ:放射線治療50Gyで10年生存割合(率)90%前後、20年では80%前後が得られる。
中等度悪性群:放射線治療のみでは5年生存率50%前後。
(悪性奇形腫、ジャーミノーマあるいは奇形腫主体の混合腫瘍など)
高度悪性群:放射線治療のみでは3年生存割合(率)は30%以下で、5年以上の生存は困難。
(卵黄嚢腫瘍、絨毛癌、胎児性癌に加えて、これらの悪性要素が主体の混合型胚細胞腫など)

2. 1990年以降の治療方法の変遷について

 胚細胞腫に有効な化学療法薬が出現し、放射線治療に加えて化学療法が積極的に併用されるようになりました。1995年から始まった「厚生労働省がん研究助成金による胚細胞腫に対する多施設共同臨床試験」では228例の治療を行い、以下の結果が得られました。(この臨床試験は、厚生労働省がん研究助成金による班研究 平成7~10年小児悪性脳腫瘍の治療体系の確立、および平成12~15年脳高次機能保全をはかった小児悪性脳腫瘍の治療法の確立、のひとつとして行なわれました。)

①ジャーミノーマでは、放射線治療の範囲を小さく(全脳から局所へ)し、かつ線量も少なく(50Gyから24Gy)しても、10年生存率97%が得られた。
②中等度悪性群には、放射線治療の範囲を小さく(全脳から局所へ)したが線量は50Gyとし、化学療法を合計8回行ったところ、10年生存率89%が得られた。
③高度悪性群では、放射線治療と化学療法を最も強力に行ったところ、10年生存率59%が得られた。
④放射線治療と化学療法の副作用はある程度発生したが、副作用死はありませんでした。しかし、後に4例に悪性腫瘍(がん)、4例に血管病変(血管腫など)が発生しました。放射線治療および化学療法ではある頻度で避けられない晩期副作用です。

 この成績を従来の放射線治療単独治療成績と比較すると、治療の負担軽減とより良好な生存率が得られたと評価できます。しかし、当時の臨床試験の精度が現在ほど高くなく、放射線治療範囲、放射線治療と化学療法開始時期など細部で徹底さにかけており、これらを統一するとさらに良好な生存率が得られる見込みとの分析がなされました。

3. 治療について

 現在、千葉大学では上述の治療変遷により、日本中枢神経胚細胞腫研究グループが主導する「初発の頭蓋内原発胚細胞腫に対する放射線・化学療法第II相臨床試験」に参加し、それに基づいて治療を行なっております。組織診断のために、患者さんにとって負担の少ない神経内視鏡を用いた生検術を積極的に行なっております。

4. 臨床試験についての相談

 この臨床試験に参加をご希望される方は,主治医の紹介状とともに外来での受診予約をお取りください。

連絡先

千葉大学医学部附属病院 (代表電話043-222-7171)
脳神経外科外来

千葉大学研究代表者:岩立 康男
試験担当医師:脳神経外科 松谷 智郎、堀口 健太郎、樋口 佳則、池上 史郎