千葉大学大学院医学研究院
脳神経外科学
千葉大学病院
脳神経外科
千葉県循環器病センター ガンマナイフ治療部
永野 修
ガンマナイフは、脳の病気を治療する放射線装置です。千葉県循環器病センターでは、1998年1月からガンマナイフ治療を開始しました(世界で92台目、日本で20台目の稼働です)。これまでの13年間で6100件、25000病変以上の治療を行い、非常に良好な治療成績を収めて参りました。2011年度は約400人の患者様が当センターで治療を受けられております。現在当センターは、ガンマナイフ治療専用棟、ガンマナイフ治療専用MRIが設置され、専任スタッフ(医師、看護師、放射線技師、医療事務)によるチーム医療体制を敷いていますので、患者様には安心して快適な治療を受けられるよう入院環境を整えております。
ガンマナイフ治療は、通常の開頭手術や放射線治療に比べ、体への負担が少なく、2泊3日の短期間の入院で治療が可能です。また治療による副作用も少なく、病巣が小さいものであれば手術療法を凌駕する成績が期待できます。入院費は対象疾患の殆どが健康保険適応ですので3割負担の方ですと約20万円程度になります。
放射線の一種であるガンマ線を脳の病巣(脳腫瘍や脳動静脈奇形などの病巣)に集中的にあて破壊します。病巣の周辺の正常の脳にあたる放射線は極めて少ないため、放射線の影響が最小限に抑えられます。特にガンマナイフは、手術ができないような脳深部や手術が危険な部位治療に効果を発揮します。さらに手術の危険度の高い方や高齢の方でも、体にかかる負担が少ないため安全に治療できます。また手術でとりきれなかった腫瘍や再発の腫瘍に対しても治療が可能です。
原理は201個のコバルト線源からでるガンマ線が機械の中心に集まるように、治療装置本体の中に配列してあります。機械的誤差は0.1mm以下です。この機械の中心には201本のガンマ線が機械の中心に集中する結果、その焦点には極めて大量のガンマ線があたり、中心から少し離れた部分にはほとんどガンマ線はあたりません。これは、ちょうど虫めがねで太陽の光を一点に集めると、焦点では紙が焼けるほど熱くなりますが、焦点から離れたところではほとんど熱をもたないのと同じ原理です。したがって、病巣が小さくなければガンマナイフで治療できません。原則として、病巣の最大径が2.5cm以下であることが必要です(大きくなればなるほど治療成績は低下します。一般に3cm以上の病巣はガンマナイフ治療の適応になりません)。 このガンマ線が集中的に集まる機械の中心(焦点)に病気の部分を正確に一致させ、治療を行います。このため、位置を決めるためにまた放射線を照射している間動かないようにするため、フレームを頭蓋骨にピンで固定しなければなりません。この際多少の不快感がありますが、当センターでは適切な鎮痛、鎮静剤を使用しますのでほぼ無痛です(小学校低学年より小さい小児の方は全身麻酔下の治療が必要です)。そして、このフレームを土台にして座標を決め、MRI・CT・脳血管撮影を用いて病変の広がりを3次元的に把握します。この病変の広がりに正確に一致させて放射線を可能な限り大量にあて、周囲の正常組織には被ばくが少なくなるようにコンピューターで計算します(治療計画)。すべての準備が整いましたら照射を行います。照射は寝ているだけで全く痛みはありません。時間は病巣の形状、大きさ、個数で異なりますが通常1~2時間程度です。照射が終了しましたらフレームを外し1時間後には通常の日常生活が可能となります。当院では通常翌日の退院としていますが、治療後の状態が時間や許せば治療当日の退院も可能です。
手術と異なり、良性脳腫瘍に対するガンマナイフ治療は病巣を完全に消失させることを目的にしているわけではありません。新たに神経症状をださずに腫瘍が大きくならなければ治療は成功したといえます。また、すでにある症状の軽快に必ずしも結びつくとは限りません(腫瘍の増大を防ぎ、症状がこれ以上進まないことを目標としています。したがって手術と異なり、基本的に良性の腫瘍と一生共存して生きていくことになります)。一般に良性脳腫瘍に対しては、80〜90%以上の非常に高い治療奏功率が報告されています。
最大径が2.5cm以下で、何らかの理由(高齢者、全身状態が不良、手術治療がどうしても納得できない場合など)で、手術が不可能な場合が適応になります。ガンマナイフ治療後10年間で90%の確率で腫瘍の成長が止まるか、腫瘍が縮小することが知られています。ただ現在のガンマナイフ治療が確立されてまだ20年程度しか経過していないため、その後の経過は不明な点もあります。また、10%の方はガンマナイフ治療を行っても腫瘍が増大したり、嚢胞を形成したりして脳を圧迫し手術が必要になります。また、治療後頭の中に髄液という水がたまって(水頭症といい自然の経過でもおきます)、簡単な手術(シャント手術)が必要になることがあります。
副作用として、6~12か月後には一時的に腫瘍が大きくなることが一般的で、その大きくなるスピードや程度によって、顔面神経麻痺(多くは軽度で一時的なもので数%未満、永遠に残ってしまうもの1%未満)、聴力低下(1/3が廃絶、1/3が低下、残りの1/3が不変)、顔面の異常感覚(しびれ)がでることがあります。
他に、極めて稀ですが(数千にひとつの確率と予想されています)、放射線が原因で腫瘍または放射線があたった部分に悪性腫瘍ができる可能性が指摘されています。
髄膜腫の治療の第一選択は手術です。何らかの理由で手術が不可能な方や腫瘍の発生した部位が手術困難な場合にガンマナイフの適応になります。ガンマナイフ治療の目標は、腫瘍の発育を停止させ、これ以上神経症状が進まないことを治療目標としています。ガンマナイフ後髄膜腫の成長が停止する確率は一般に10年間で90%です。手術後の残存腫瘍、手術が難しい頭蓋底(海綿静脈洞部や斜台部など)や脳の深部の腫瘍、高齢者や手術に耐えられない状態で、腫瘍の最大径が2.5~3cm以下の場合が非常に良い適応です。
その他の良性脳腫瘍(下垂体腺腫(ホルモン産生、非産生)、頭蓋咽頭腫)に対する有効性も報告されています。ただし、いずれの場合も視神経・視交叉と腫瘍が離れていることが治療の条件です。
副作用は個人差もありますが病巣の部位(脳幹など)病巣が大きい場合病巣の数が多い場合強い放射線を照射した場合以前に脳の病気の部分に放射線治療を受けた人におこりやすいことが知られています。
このうち最も頻度が多いのが脳のむくみ(脳浮腫といいます)があげられます。MRIで鋭敏に観察されますが多くは無症状です。しかし症状があるようでしたらステロイドという副腎皮質ホルモン剤の内服が必要になります(このステロイドが極めて効果的です)。 他の副作用として頭皮の近くに病変があればその付近の毛が一時的に抜けることもあります。しかし必ず数カ月後にまたはえてきます。また頭部以外への副作用は全くありません。
ガンマナイフ治療はすべての脳の疾患に有効なわけではありません。病気の種類や大きさ、全身の状態、患者様が治療に何を期待するかで、ガンマナイフ治療が可能か決まります。治療を受けられるにあたり原則として下記の手順をふんでください。
受診の際は治療担当医師よりガンマナイフ治療の内容等の説明がありますので、ご家族様の同席をお願い致します。