病気と治療

ページタイトル画像

コイル塞栓術

未破裂脳動脈瘤に対する血管内治療 コイル塞栓術

小林 英一

脳動脈瘤が破裂してくも膜下出血をきたした場合には、生命に危険が及ぶか脳の後遺症を残す可能性が高く、それを予防するためには破裂防止の処置が必要となります。
現在のところ、薬物を中心とした内科的治療では破裂を防止する事は不可能で、物理的に脳動脈瘤内への血流を遮断する必要があります。
これには大きく二つの方法があり、一つは開頭手術を行い、動脈瘤の根元に特殊クリップをかける方法でクリッピング術と呼ばれています。もうひとつは動脈瘤内にプラチナ製のコイルを詰めて動脈瘤を閉塞する方法でコイル塞栓術(血管内手術)と呼ばれます。

前者は長い歴史に裏打ちされた確実な治療で、現在でも最も信頼の置ける治療法と考えられています。
治療中に出血しはじめた際でも対処が可能である点は、大きな利点です。しかし、

  • 全身麻酔が必要で頭蓋骨を開けなくてはならない
  • 手術で脳または脳表の血管に触れるため障害が出る可能性が皆無ではない
  • 脳の深部などに発生した特殊な動脈瘤の場合、視野が限られ手術操作が難しい

などの不利な点もあります。これに対してコイル塞栓術では、

  • 局所麻酔下に大腿部の穿刺のみで可能であり、頭を開ける必要はない
  • 脳に全く触れることなく治療が可能である
  • 脳の深部でも大きな技術的困難は無い

などの優れた特徴を持っています。しかしこの治療も万能ではなく、

  • 治療中に出血をきたした場合には対処が困難で、生命に危険が及ぶことがある
  • 血管内に血栓(血の塊)ができて、動脈瘤の周囲やその先で血管を閉塞して脳梗塞を起こすことがある
  • コイルがずれたり飛び出したりする事がある。これにより正常な血管を閉塞し脳梗塞を起こす可能性もある。脳梗塞を起こした場合、麻痺や言葉の障害、知能や意識の障害が出現し、さらに生命に危険が及ぶこともありうる。
  • 治療が不充分な場合、動脈瘤が大きくなったり、破裂する事がありえる
  • 治療法として有効であると報告されているが、歴史が浅いため長期治療成績が充分解明されていない

などの問題点も有します。しかし、最近の報告では、むしろ開頭クリッピング術よりも血管内治療のほうが優れている場合もあると考えられています。

このため当科では、開頭クリッピング術と、コイル塞栓術の短所・長所を綿密に検討し、症例ごとに最も適した治療法を選択しています。

一般にコイル塞栓術の適応となると考えられるのは

  • 脳の深部や頭蓋骨底部に脳動脈瘤があり、手術が困難または治療リスクが高いと考えられる脳動脈瘤
  • 全身や脳の状態が不良で、全身麻酔が危険と考えられる場合
  • 高齢で手術や麻酔のリスクが高いと考えられる場合
  • 患者様が血管内治療を希望される場合

実際の血管内手術の方法は次のとおりです。

先ず大腿の付け根に局所麻酔を行い、大腿の動脈よりカテーテルと呼ばれる細い管を動脈内に挿入します。次にレントゲンで透視をしながら、カテーテルを頸部の動脈まで誘導します。その管の中にマイクロカテーテルと呼ばれる更に細い管を通して、これを脳動脈瘤内まで送り込みます。マイクロカテーテルの中にプラチナ製の細い糸(コイル)を送りこみ、動脈瘤の中で糸を巻くようにして丸めて動脈瘤内を詰め、切り離して置いてきます。コイルは動脈瘤の大きさにより何本も必要とされます。最終的に動脈瘤が完全に詰まったのを確認した後、カテーテルを抜去し、手技を終了します。脳梗塞の合併症を防ぐため、治療後血液を固まりにくくする注射薬を1日から数日間、さらに同じような効果をもつ内服薬を数ヵ月内服してもらいます。
以上は概要であり、個々のケースに応じて、適応や手技を変更する場合があります。
コイルによる塞栓術では、いちど詰めたコイルが少しだけ縮小して、脳動脈瘤との間に隙間ができ、治療効果(破裂予防)が不十分になる場合があります。
このため定期的に検査(血管造影やMRA)を行い、治療効果が十分かどうかを慎重に観察してゆく必要があります。