お知らせ

ページタイトル画像

Chiba LEAF study 「前十字靭帯損傷治療における多施設レジストリー研究」

2023/06/28

 

 

Chiba LEAF study

(Chiba Leading to Evidence of ACLR toward the Future study)

 

前十字靱帯損傷治療における多施設レジストリー研究

 

要約

前十字靭帯(ACL)とは、膝の安定性を維持する重要な組織です。スポーツや激しい動きの際に損傷することがあります。ACL損傷による症状は膝の不安定感や腫れなどです。膝が外れた感じがある場合や腫れが続く場合には、整形外科を受診することをおすすめします。未治療のままでは、膝の軟骨が悪化し、変形性膝関節症に進行する可能性があります。

手術治療としては、ACL再建術が多く行われています。ハほとんどの患者さんがスポーツに復帰することができますが、完全な膝の動きの回復は難しいことが知られています。また、長期的には関節の変形性膝関節症を引き起こす可能性があることも認識しておく必要があります。

千葉大学中心にその関連病院では、ACL損傷治療に関する研究が行われています。複数の医療施設が協力し、データを集めて治療成績を分析することで、より良い治療法を見つけることを目的としています。ACL損傷治療における高いクオリティのエビデンスを千葉から世界へ発信していきたいと思っています。

 

 

 

前十字靱帯(ACL)とは?

膝の中央を通る重要な靱帯が2本存在し、中央部で2本はクロスしているため十字靱帯と呼ばれまず。そのうちの前方の靱帯を前十字靱帯(Anterior Cruciate Ligament, ACL)は、後方の靱帯を後十字靱帯(Posterior Cruciate Ligament, PCL)と呼びます。

これらは大腿骨と脛骨を繋げて膝を安定させる役割を持っています。ACLは主に前後方向の動きと回旋(ねじれ)の動きのコントロールもしています。ACLはとくにスポーツなどで急激な動きをする際に非常に重要で、この靱帯がうまく機能していない場合には膝は亜脱臼(うまく噛み合わずに骨同士がぶつかる)を起こしてしまいます。これを膝崩れ Giving wayといい、この現象が起こるためそのままではスポーツ活動を継続することは難しいことが多いです。

 

ACL損傷が起こると?

前十字靭帯(ACL)断裂、損傷は日常的に生じうる怪我の一つです。特徴としては膝の中に出血が溜まるためお皿(膝蓋骨)の上方にある関節の袋がパンパンに膨らみ、上記で説明したような膝の不安定性が生じます。1、2週間で腫れも引き、痛み落ち着いてしまい日常生活に戻れてしまうことも多いので大丈夫かなと思ってしまう方もいますが、最初の受傷時に膝が半分外れたような感覚があり腫れた場合には整形外科を受診しましょう。ACL損傷が疑わしい場合には当大学に紹介状を書いてもらい受診をしてください。

 

ACL損傷後は??

ACLは一度切れてしまうと、自然には治らず、脛骨(すねの骨)の前方および回旋(ねじれ)の不安定性が残存します。こうした通常の膝とは異なる動きをすることで膝関節の軟骨は変性(傷んで悪くなる)し、軟骨損傷や半月板(膝の間のクッションの役割を果たしているもの図参照)損傷を引き起こし、変形性膝関節症(OA:オーエー)へと進んでいきます。

 

ACL損傷の治療

 

保存治療

活動性が高くなく(スポーツ希望せず)、日常生活で問題があまり出ない方は保存治療が選択されることもあります。膝のブレース(サポーター)等の補助具をつけたり、筋力訓練を行って膝関節の外側から膝の安定性を強化します。しかし、短期的には症状もとれ日常生活を送れるようになったとしても、たまに行うスポーツ活動には危険を伴い、また将来的にはやはりOA変化が通常よりも早く進んでしまうことが多いです。

 

手術治療

日常生活に支障をきたす場合(階段昇降でひざが崩れてしまうなど)やスポーツを継続したい希望がある場合には手術療法が選択されることがほとんどです。

 

ACL再建術は、ハムストリングス腱や膝蓋腱、大腿四頭筋腱の一部を取ってきて靱帯のかわりとなるように膝関節の中を通すことで膝の異常な動きを抑えほとんどの症例でスポーツ復帰を可能にします。近年の手術方法の発展は目覚ましく、非常に良好な成績が報告されるようになってきています。しかし、再建術を行った場合にも膝関節の動きは完全には治すことができていないと考えられ、長期的に見るとOA変化を引き起こすことが知られています。

 

 

ACL損傷に対する千葉大学グループの研究

千葉県では多くのACL損傷症例の治療が行われています。そこで、当大学整形外科の膝関節グループ(関連病院を含む)で、術前や術後の検査を統一して、測定データやアンケート等を共有することでより質の高いデータを数多く集めるため、多施設共同研究 (Chiba LEAF study)を立ち上げました。世界へ向けてACL損傷治療における質の高いエビデンスを示していくことを目的としています。

 

組入れ施設

 

千葉大学医学部付属病院   千葉メディカルセンター   東千葉メディカルセンター        

東邦大学医療センター佐倉病院   おゆみの中央病院   千葉労災病院   成田赤十字病院

みどりのは葉記念病院   旭中央病院   柏市立柏病院   北千葉整形外科 

君津中央病院   国府台病院   佐原病院   さんむ医療センター   下志津病院   

習志野病院   沼津市立病院   流山中央病院

 

対象 

ACL損傷に対して保存治療、またはACL再建術を受けたもしくは受ける予定の方

 

研究内容の概要

実際に手術の説明の際に研究についてのご説明もいたしますが、基本的には通常の治療と変わらない治療を各施設でおけていただきます。説明に同意を頂けるようなら同意書にサインいただき、術前、術中、術後のデータを後日回収し匿名化の上で解析させて頂くことになります。

 

研究代表者

千葉大学予防医学センター・大学院医学研究院 整形外科学

特任助教 渡邉翔太郎

千葉大学予防医学センター

教授 佐粧 孝久 

 

本研究は千葉大学の倫理審査委員会の審査を経て実施しています。

本研究においては、通常診療の範囲内であるため経済的費用負担は生じません。そのため謝礼は行いません。また、この研究に参加するかしないかは完全に自由です。この研究参加を拒否したことにより通常の診療が受けられない等の影響を及ぼすようなことはありませんのでご安心ください。

 

千葉から世界にむけて

 

より多くの患者様の参加をお願いしております。多施設での手術術式や術後経過のデータを登録する制度を構築することにより、異なった治療成績のメリット・デメリットが明らかになる可能性があります。ACL損傷治療における高いクオリティのエビデンスを千葉から世界へ発信していきたいと思っています。

 

文責 渡邉翔太郎

  整形外科専門医、日本スポーツ協会認定スポーツドクター

2022年- 特任助教 千葉大学 予防医学センター / 整形外科学

2018-2022年 千葉県U16トレセン帯同ドクター、国体少年サッカー千葉県帯同ドクター

 

5歳からサッカーを始めスポーツがとても好きな3児の父です。私もACL損傷を起こして、2010年に左膝ACL再建術、半月板縫合術、2015年に右膝ACL再建術、半月板縫合術を受けました。しかし現在も整形外科をやりながらサッカーを楽しんでいます。小学生の息子にまだまだ負けないようにこれからも頑張るつもりです。怪我をしたばかりの皆さん、絶望の中で何も考えられない方もいると思いますが、ACL再建術はリハビリが大変ですが元のレベルまで戻れる方がほとんどです。正しい治療、予防が重要です。是非まずは大学や関連病院までご相談ください。力になれることを願っています。お知らせ