メッセージ

千葉大学 博士課程リーディングプログラム
免疫システム調節治療学推進リーダー養成プログラム

千葉大学長 横手 幸太郎

千葉大学は、その前身の時代から教育・研究を通じて優れた人材を養成し、もって社会の発展に貢献することを第一の目標にしてきました。千葉大学大学院医学薬学府では、大学が掲げる「つねに、より高きものをめざして」の理念のもと、最高学府にふさわしい優れた学問を学修する中で、高い知性と豊かな人間性を育み、グローバル社会で活躍できるリーダーの育成を進めています。

その中で、2012年度から続く博士課程教育リーディングプログラム「免疫システム調節治療学推進リーダー養成プログラム」は、免疫という生体防御機能を新規治療法開発の中心として活用し、世界を先導する創造的な治療学研究者を育成しようというものです。特に社会的要請の強い難治性の免疫関連疾患に焦点を絞り、新規治療薬の開発を含む「治療学」を推進するだけでなく、これまでに構築された国際的な教育研究基盤の基に、国内外の第一級の教員を結集し、「豊かな国際性」と「より実践的な研究開発推進能力」や「幅広い知識に裏付けされた総合的判断能力」を身につけた治療学リーダーの養成を目指しています。

千葉大学は、世界の免疫学に大きな影響を与えた多田富雄先生以来、連綿と続く国内有数の免疫学のメッカです。また、医学部附属病院もコロナ禍のワクチン研究で存在感を高めました。2023年に採択された「地域中核・特色ある研究大学強化促進事業」においても、免疫学・ワクチン学研究、予防医学研究等の本学の強みを戦略的に強化し、成果の社会実装に繋げるとともに、学内の幅広い分野への横展開を図っています。本学が強みを持つこれらの領域の研究・教育活動を最大限に活かしつつ、本プログラムを強力に推進していきたいと思います。

現代の医療は、過去の研究によって得られたエビデンスやそれに基づき策定されたガイドラインに則って行われます。しかし、それだけでは、治療や検査法の確立していない難治性疾患を克服することができません。本プログラムの修了生には、50年後の医学を見据え、基礎研究・臨床研究・国際共同治験などを通じて新たな治療手段の開発に取り組み、エビデンスやガイドラインを使うだけでなく「創る」ことを目指し、ポストコロナの世界を自ら切り拓いていってほしいと思います。

2020年4月から4年間、千葉大学医学部附属病院長の職にあった私は、新型コロナウイルス感染症の蔓延に伴う医療逼迫を経験するとともに、ウクライナの事変を見聞したことで、それまで我々が日常的に享受してきた最新医学の修得や実践、さらには好きな研究を自由に行うことができる環境が当たり前のものではないのだ、ということを痛感しました。この経験を活かし、社会がどのような状況にあっても、患者さんのため、明日の医学のため、そして仲間のために、歩み続けられる人と組織でありたいと思います。

大学は人と知を育む場所です。現代は閉塞感がある時代ですし、日本は国土が狭く資源も少ないからこそ、前例にとらわれず自らの判断で道を切り開いていける逞しい人材、そして社会課題を解決するような研究の成果が重要になってきます。これまでの履修生たちは、本プログラムでの研究・教育活動を通じて生み出した成果や強みをより良い社会を創るために活かす、逞しい活躍を見せてくれています。今後もこの「免疫システム調節治療学推進リーダー養成プログラム」に多くの若い力が集い、私たちと共に学び、世界とつながり、最先端の治療学研究を通じて、未来を力強く築いてくれることを期待しています。

「治療学」の新しいリーダー養成

プログラム責任者 副学長 斎藤哲一郎

千葉大学は、世界で初めて食道がんの手術法を開発した中山恒明博士や胃のX線二重造影法を生み出した白壁彦夫博士、川崎病を発見した川崎富作博士、免疫学を大きく発展させた多田富雄博士をはじめ、世界の医学・医療を牽引した多くの優れた人材を輩出してきました。この伝統を引き継ぎ、グローバルに活躍できるリーダーを養成し続けることを目的として、本リーディングプログラムが平成24年度からスタートしています。

ライフサイエンスの急速な進歩の中、日々新しい発見が報告されていますが、実際の治療に応用されるまでには多くの年月がかかります。米国の大学などでは研究室の垣根が低く情報交換や機器の相互利用が盛んですが、日本では基礎医学と臨床医学の連携が緊密でないことも多く、医薬品や医療機器の輸入超過が年に2兆円を超える一因となっています。

千葉大学大学院医学研究院は、平成24年にグランドデザイン将来構想を掲げ「治療学」の創生と研究推進を最重点項目に設定しました。医学部の旧態依然とした枠組みである基礎医学講座と臨床医学講座の概念を取り払い、基礎系と臨床系が融合した新しい教育と研究、診療の体制に再編し、基礎研究の「シーズ開発」から臨床研究へシームレスに移行できるようにしました。大学院教育では、薬学研究院とともに日本初の医学・薬学融合型大学院である医学薬学府を中心に、理化学研究所や量子科学技術研究開発機構などの多くの研究機関と連携し、領域横断的な教育と若手研究者の育成を推進しています。

本プログラムには国内外の産学官から50名を超える教員が担当教員として参画し、きめ細かな指導を行っています。基礎研究から臨床実践までを俯瞰して学ぶローテーション演習や国内外の企業・研究機関での研修、学生が企画しノーベル賞やプリツカー賞の受賞者を含む幅広い分野の方から学ぶ「高い教養を涵養する特論」などの新しい教育カリキュラムを組織しており、リーダーに必要な多角的視点や統率力などの様々な能力を養うとともに、免疫システムを中心に一流の研究力を育み、博士課程修了とともに世界の第一線で活躍できる人材を育成します。

これまでの4年間で50名の学生が500名を超える医学薬学府の博士課程先端医学薬学専攻の入学生から選抜され、本プログラムを履修しています。7名が海外からの留学生、3割以上の学生は医学部以外の出身です。学生は、毎年、研修先の国内外企業や研究機関からも高い評価を受けています。2020年代には、文字通りのリーダーとして様々な分野で活躍していることを確信しています。

未来の免疫システム調節治療学推進リーダーへ

プログラムコーディネーター 本橋新一郎

2019年末より始まった新型コロナウイルス感染症の世界的流行に対して、免疫システムに関して積み上げられた知見とワクチン作成に関する最先端の科学技術を基盤に、全世界でワクチン開発が推し進められました。これは、社会からの要請に応える形で実現した、今までの常識では考えられない異例のスピードでのワクチン開発でした。現在までに、臨床現場から新型コロナウイルス感染症に対するワクチン接種の有効性が続々と報告されています。

この感染症は研究や医療の現場だけではなく、我々の意識にまで変革を起こしました。緊急時にこそ発揮されるべきリーダーシップの資質、異分野専門家や世論との対話に必要とされるコミュニケーション力、基礎研究と臨床現場をつなぐ橋渡し研究の意義、安全性を確保しつつ迅速に研究成果を社会実装することの重要性が全世界で再確認されました。奇しくも、難治性の免疫関連疾患の新しい治療薬・治療法開発を推進するグローバルリーダーの養成を目指す本プログラムは、2012年の開始当時よりこうした能力を醸成するための独自の教育カリキュラムを提供してまいりました。

分野が異なる3名の指導教員が提供するきめ細やかな指導により、自身の研究を様々な角度から見つめ直すトリプル指導制。海外の一流大学・研究機関に所属する70名近くの客員教員の先生方を講師に招き、最先端の研究技術を学ぶリーディングセミナー。基礎から臨床までの研究室の研究内容・技術を学ぶため、各研究室で数日間にわたり学ぶローテーション演習。学生本人が企画し、ホスト機関との交渉を行う自主研修。これらを通じ、免疫システムを中心とした治療学の知識・技術のみならずリーダーに要求される能力を養い、大学・行政・民間など様々なセクションでグローバルに活躍できる人材を育成しています。

これまでに75名の学生が本プログラムを履修しており、すでに第5期生までの50名の学生がプログラムを修了し、産官学の各分野で活躍しています。そのうち約1/3の学生は、NIHやUniversity College Londonを始めとする海外の大学・研究所において、研究者として更なる研鑽を積んでいます。学生の皆さんには、本プログラムで治療学推進リーダーに必要な多角的視点や統率力などの様々な能力を学び、試行錯誤を繰り返しながら新たな知、新たな医療を生み出す礎を築いてほしいと思います。まずは本プログラムで失敗に失敗を重ね、粘り強く成功するまで続けてみてください。その先にきっと新たな真実が待っています。近い将来、それぞれの場所のグローバルリーダーとして、世界にそのプレゼンスを示す君達と再会できることを期待しています。