着任時の挨拶

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リサーチマインドと臨床

 臨床家にとって、患者さんが最良の教材であり教師です。症例経験を積み重ねるなかで、臨床医としての力量を高めていくわけです。ところが、もっとも重要な点は、多くの症例を経験するだけで十分な研修効果があがるのではないということです。同じ数の症例を経験した研修医であっても、数年もすると力量に差が生じ、異なる診断を下すようになります。研修効果は、経験する症例のなかから何をどれだけ多く学ぶかにかかっているのです。
そこで、当教室では研鑽を積んでいくためのノウハウをまず身につけてもらうよう指導します。ひとつひとつの症例にじっくり取り組み、症状や所見を合理的に分析して診断を進め、エビデンスに基づいて治療方針を考えていく作業を行います。わからないことがあれば文献にあたり、それでも解決しないときには自ら研究して明らかにしていく。この一連の過程では、合理性・合理的判断がとても大切であり、これにより客観性も担保されることになります。
このような過程は、科学的研究(リサーチ)ともよべるものです。臨床家にもリサーチマインドが必要だというわけです。臨床家としての研鑽は一生続ききます。将来大学を離れ、病院を離れてひとりで診療にあたる時期が来たとしても、常にリサーチマインドを持って自らの知識をupdateしていく臨床医であってほしいと思います。

リサーチマインドをもった臨床家に込められたもうひとつの思い

 “リサーチマインドをもった臨床家”には、臨床医学研究者を育てたい、臨床医学研究の後継者を育てたいという願いも込められています。臨床研修制度が変わり、初期研修医の多くが大学病院以外の研修病院での研修を選択する時代になりました。数多くの症例を経験したいと考える研修医にとっては、ある意味で当然の選択だと思います。その中で、大学・附属病院としては、トランスリレーショナルリサーチすなわち基礎研究の成果をいち早く臨床に応用していくための研究を行うことで、一般臨床教育病院との違い・役割分担を明らかにしていく必要があります。そのための臨床医学研究者・後継者の養成が急務となっています。