千葉大学大学院医学研究院
産婦人科学講座
千葉大学病院
産科・婦人科
私は医師になって間もない頃にエストロゲン合成酵素の欠損症症例を見つけました。出張先の病院で、妊娠中に母児が男性化と尿中エストロゲン低値を呈した症例を見つけたのですが、このような症状の組み合わせを示す疾患は当時知られておらず、不思議に思って考えているうちにアンドロゲンをエストロゲンに転換する酵素の欠損でこの症状の組み合わせを矛盾無く説明できることに気が付きました。そこで、分娩前にホルモン負荷試験を施行させていただき、分娩後は胎盤の酵素活性を測定して活性欠損を確認しました。酵素遺伝子がクローニングされた後、凍結保存しておいた胎盤を使って遺伝子解析を行い、本症が同酵素遺伝子の変異によって生じた疾患であったことを証明することができました。症状を合理的に分析することで適切な仮説を立てこれを実証していく、一連の作業は実に楽しく毎日わくわくしながら研究を進めることができました。このような経験を踏まえ、真摯に日常診療に取り組むなかで問題を見つけることのできる目を養うことの大切さ、自ら解決していく臨床医学研究のおもしろさ・醍醐味を学生や若い医局員に伝えていきたいと思っています。
この発見以前には、エストロゲンは生殖に必須のホルモンであり、欠損した場合には生存が不可能と信じられていました。この常識にとらわれていたら、本症を発見することはできなかったと思います。既存の概念にとらわれることなく、得られている情報を合理的に判断していくことが大切です。日常よく見かける疾患の場合でも、得られているエビデンスを最大限活用して判断していく合理性が求められている時代です。