着任時の挨拶

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工夫

人事における基本的考え方

生水真紀夫

 研修制度が大きく変わり、各研修機関が提示した研修プログラムのなかからひとつを後期研修医自身が選択して研修を受けるというシステムとなりました。後期研修医には、提示された研修を受ける権利があり、われわれには約束した研修プログラムを履行する義務があるのです。このことは、後期研修医を医局あるいは関連病院の都合だけで人事移動させることはできない時代になったことを意味しています。
 次年度は、幸い3名の後期研修医が千葉大学での後期研修プログラムを開始してくれることになりました。あたらしい後期研修のスタートの年であること、教授交代の時期に一致したことなどから、実際の研修プログラムについてはこれから具体的に整備していくことになります。国が目指した研修の理想を具現化するとともに、従来の医局・関連病院による臨床医養成システムの良さを加味した、融合型の研修制度を整備したいと考えています。
 大学は科学的思考と新規の知識・技術の伝授につとめ、関連病院には主として実施臨床を担当していただきます。両者が連携して研修プログラムを実施し、3名の後期研修医が満足してくれる研修を実現させたいと思います。充実した研修プログラムの実現は、次年度の後期研修医の獲得に資するはずであります。研修制度の変更によって逆境に追い込まれた感があるのですが、研修制度を上手に利用することで逆に後期研修医を獲得するあらたなチャンスに変えたいと考えています。
 そこで、今年度の人事とのからみでもうひとこと付け加えておきたいことがあります。それは、研修医獲得のためのインセンティブ の原則です。今年度は、沼津と労災病院の先生方が努力して研修医の勧誘を行ってくれました。仕事内容や研修項目なども勘案した上で、今年度は沼津に1名研修医を送る(1名増員)ということにしたいと思います。労災病院は今年度は、クレジット1ということにさせていただきます。これからも、研修医の勧誘に成功した病院を優先するという方針で臨みたいと思います。勧誘のための意欲をたかめ、かつ初期研修を充実させるための方策です。日本の伝統的文化・価値観にそぐわない感もありますが、現実の社会では広く受け入れられてきているやり方です。来年度の研修をさらに充実したものでしていただきますよう、お願いします。

4つの課題とその対策

課題要件対策
1. 研修プログラム バランスのとれた症例経験
婦人科・産科・不妊など
同級生でのバランス
  1. 研修病院による研修(予定)の具体的提示
  2. 研修内容の総括と評価(1年ごとに研修手帳を確認)
  3. 原則として年度ごとにローテーション
  4. NICU研修6ヶ月・麻酔科研修6ヶ月を行う
  5. 大学での臨床検討会実施
研究・学位取得
  1. 望により大学院進学または医員の身分での学位取得
  2. 学会・研究会への参加への配慮
  3. 海外留学の斡旋
専門医資格取得
  1. 2段階目の専門医資格の取得にむけての研修病院選択
2. 母性医師のための環境整備 産前産後の休暇・育児休暇
  1. 医員の身分をつかって休暇を確保する
  2. 医員の身分をつかって、ワークシェアーリング・フレックスタイムを実現する
キャリアーの継続・復職
  1. 個別の事情にできる限り配慮した、様々な就業形態を模索する(固定日当直、当直日数の削減など)
3. 労働環境の整備 集約化
  1. 県主導での分娩施設の集約化と機能分担(連携病院)
NICU・小児科との連携
  1. NICUの充実した病院での研修を優先させる
4. 地域医療への貢献 1. 基幹病院の維持
  1. 後期研修医の関連病院での研修開始
  2. 婦人科外来のみの継続

 関連病院人事についての、具体的課題とみたすべき要件およびその対策を表にまとめました。本年度以前に入局して現在研修中の医師についても、同様に対応します。
 第一の課題は後期研修プログラムの充実です。このため、1)研修医受け入れ前に研修項目を文書で明示してもらうこと、2)翌年度に1年間の研修内容を評価検討して、次年度の研修内容・施設を決める参考とします。プログラム記載に当たっては、正常分娩80件、帝王切開術執刀20件、単純子宮全摘術執刀20件、周産期カンファレンス(小児科・NICU)、産婦人科学会総会出席などといった具合に、具体的に記載してください。
 研修医間でのバランスをとること、異動について心の準備をしておくことで円滑な人事異動が行えること、研修期間を通じてなるべく多くの先輩医師に接して多様な考え方や診療技術を習得できるようにすることなどの理由から、原則として1年ごとに異動するものとします。研修期間をおえ、産婦人科専門医となった時点あるいは学位を取得してその後一定期間を終えて就職を希望した場合などはこの限りではありません。
 第二は、母性医師のための環境整備です。産前産後の休暇・育児休暇が保証されること、キャリアーの継続・復職に対する希望に柔軟に対応できる勤務体制が組めることが必要となります。これらの条件を整えることができるのは、大学病院だけであろうと思われます。そこで、分娩時期が確定した段階で大学に相談していただき、できる限り大学に戻っていただく形で対応したいと思います。本年7月には2名が分娩のため休暇に入ります。それまで医員の身分で大学病院にいていただくことにします。
 第三は、労働環境の整備です。これには2つの意味があります。ひとつは、できる限り集約化して配置することで、ここの医師の過重労働を軽減させ、バーンアウトを防ぐことです。最近、国からの指示があり、県単位で産婦人科小児科の・病院ごとに機能分化をすすめることで労働力の集約化をはかることを行うことになりました。総論賛成・各論反対となりそうですけれども、できる限り人員の集約化を図りたいと考えています。本年度は、塩谷病院から1名削減することにしました。労働環境整備のもつ二つめの意味は、小児科・NICUとの連携強化にあります。NICUとの連携なしに周産期医療を行うことはできません。NICUをもたないあるいはNICUとの連携が困難な場合には(連携病院と定義されています)、ハイリスク症例をあらかじめ対応可能な病院(連携強化病院)に転送するのを原則とし、そのために人員を連携強化病院にシフトさせるというのが国の方針となっています。すぐには、実現不可能ですが今後十分考慮していく必要があります。
 第四は、地域医療への貢献への配慮です。千葉大学の関連病院がこれまで千葉の周産期・婦人科医療に大きく貢献してきましたし、今後もこれを誇りにしてその役割を担っていかねばなりません。大学医局は、人材養成のために中心的役割を果たしていくつもりです。
 現在の医局事情から、一時的には痛みを伴う人事となると思います。しかしながら、しっかりした教育プログラムを実施すると、充実したプログラムに人が集まり、その結果労働環境も改善されて、さらに人が集まるようになる、すなわち正のサイクルを作ることです(マタイ効果)。逆に、いったん負のループを作ってしまうと、状況は加速度的に悪化してしまいます。
 今年は、大学院生1名が大学院を修了します。しかし、この大学院生は研究をしながらすでに大学病院で医員として働いており、労働力としての増加にはなりません。研修先より帰局する大学院生1名が増加分となります。しかし、4月より6ヶ月間、1名を周産期医療研修のため大阪の府立成人病センターに送り出します。また、助手1名が、早ければ5月に開業します。さらに、先にのべたように、医員2名が7月より産休に入ります。したがって、大学としては実質1-2名の減少となります。
さらに、関連病院勤務中の2名が医局を離れます。また、関連病院勤務中の一名が育児のため、ワークシェアリングでの就業のみ可能となっています。これらの事情をすべて考慮して、人事異動案の調整に当たりました。大学医局としては、実質的に低下する戦力を最小限にして、研究体制をはやく確立することを目指したいと思います。関連病院の皆様には、どうぞご理解とご協力を賜りたいと思います。