千葉大学大学院医学研究院
産婦人科学講座
千葉大学病院
産科・婦人科
教授の生水真紀夫(しょうず まきお)です。
千葉大学産婦人科は、明治21年の開講以来、130年余の歴史と伝統を有しています。平成13年に、大学院重点化により生殖機能病態学講座として再スタートを切りました。
千葉県で唯一の国立大学(法人)として、大学院・医学部・附属病院で教育・研究・診療を行っています。千葉県の人口は既に600万を超え、北部の東葛地域は人口が密集した都市部となっています。一方、南の房総半島には過疎地もあります。過密と過疎にともない、医療事情も両地域で大きく異なります。このような日本の縮図ともいえる千葉県にあって、当教室では、大学(先進的医療・研究)と関連病院(地域医療)とを有機的に組み合わせることで社会的ニーズに応えられる人材の養成(教育)を行っています。
千葉大学産婦人科は、附属病院では周産期母性科と婦人科の診療を、大学院では生殖医学reproductive medicineの研究を行っています。
周産期母性科では、妊婦死亡をゼロすることを目指して地域ぐるみの活動を行っています。婦人科では、卵巣癌や子宮体癌などで先進的な治療法を開発しています。絨毛性疾患や思春期・内分泌関連の疾患では、極めて専門的な診療を行っています。
千葉大学産婦人科の強みは、症例数と「kaizen」です。県内の多くの施設から多くの患者さんをご紹介いただきますので症例は豊富です。適切に診断し治療を行うことはもちろんですが、大切なことは学びの姿勢です。一人の患者さんからはその患者さんの疾患以外にも、鑑別すべき疾患や生理学的事項など多くのことを学ぶことができます。どれだけ多くのことを学ぶかは、学習者自身にかかっています。
もう一つ、大切なことが「kaizen」です。診断や治療の結果を振り返り、適切であったか、もっと良い選択はなかったかを考えます。医学的な観点だけでなく、患者さんの家庭や社会的背景の観点からも見直します。この「kaizen」は一生続ける作業です。
千葉大学産婦人科では、「常に、高きものをめざして」という本学の理念を実践しています。
当教室には3つの柱(婦人科腫瘍・不妊生殖内分泌・周産期)があります。それぞれ、Maximum debulking surgery, reconstructive surgery, safe management for medical practiceをキーワードに活動しています。さらに、2007年から新たに教育/FDを第4の柱に加えました。
教育/FDでは、文科省の補助を受けて新たに2名の教育専任スタッフ(准教授と助教)を迎えました。規定のカリキュラムを越えて、学生・研修医の産婦人科版ACLS講習や医学英会話教室など様々な活動を行っています。また、助教を含む教育スタッフの教育技術の向上(faculty development)にも努め、臨床実習指導に活かしています。
私は、大学院生の時に世界で第一例目という疾患にであったことがきっかけで、その後一貫して産婦人科内分泌学に関わってきました。当時、“理論的には存在するが、致死的であって生きて生まれてこない”と記載されていた病気です。私がこの疾患の患者が実在していることを確信するのに要した時間は僅か3ヶ月でしたが、“常識”を覆すには10年余の時間がかかりました。
半分の5年は、分子遺伝学の進歩を待っていた時間です。臨床症状から診断を推定することが出来たのですが、分子遺伝学の手法がまだ十分には進歩していませんでした。機が熟したとき、病因の実証に要した時間は僅かです。そして、その後の5年は、データーが認知されて“非常識”が “常識”にかわるまでに要した時間でした。
このようなプロセスを経験した私から、若い人達にお伝えしたいことがあります。それは、自らの仮説を実証していくときのときめきと感動です。
気づきにくい症状からみごとに手がかりを見いだし、ついに正しい診断名に辿り着いて患者さんを救うことが出来た、そのときの達成感を想像してください。まして、正しい診断名がないところからスタートして辿り着いたとしたら、達成感はさらに大きいものであることは想像に難くないでしょう。
私が発見した病気は希なものでしたが、実は臨床の場ではこのような場面が時々起こっているのではないかと思っています。
症状や所見に最も当てはまる疾患名を選ぶ。少々当てはまらないことがあるとしても、既存の疾患概念に当てはめてしまうとしたら、本当の診断や治療にはたどり着けない。選択肢に入っていない疾患が有るかもしれないのです。(このような意味で、臨床医の診断はコンピューターが下す診断以上のものがあるのだと思います。)
そこで、若い人達にひとこと。自分の目を信じましょう。若い人は、“常識”がない分だけ、新しいものを発見できるチャンスが大きいのです。(ノーベル賞の受賞者の仕事は、しばしば若いときの仕事であることも同じ理由かもしれません。)臨床医であるあなたは、自らの発見を患者さんに還元できる可能性を持っているのです。
Research physicianを目指すあなたを応援します。