千葉大学大学院医学研究院
呼吸器病態外科学
千葉大学病院
呼吸器外科
近年では慢性閉塞性肺疾患(COPD)や間質性肺疾患(ILD)を合併した肺癌患者が増加傾向にあります。手術技術の進歩に伴い、このような呼吸器疾患合併症例においても、手術の適応が拡がっていますが、ノンリスク症例と比べると術後の合併症や予後といった成績は悪い結果を示しています。
我々は、COPDやILDを合併した肺癌手術症例に対する臨床研究を行い、これら高リスク群の肺癌症例に対して、最適な治療法を検討しています。以下に、ここ数年の研究報告を示します。
(1)COPD、ILD合併肺癌症例の治療成績に関する研究
当科での肺癌手術症例を検討した結果、COPDを合併した肺癌手術症例は、様々な術後合併症を引き起こす可能性が高いことかがわかりました[1,2]。具体的には、不整脈、気胸,肺炎,気管支瘻などの合併症の発生率が、COPD合併肺癌症例では高いとの結果を得ております。また術後の予後に関した調査においては、病理病期がⅠ期の症例ではCOPDの傾向が強ければ強いほど5年生存率は下がる傾向にあるということがわかりました[3]。
ILDを合併した肺癌手術症例に関する調査においても、ILD肺癌症例は非ILD肺癌等比べても、術後肺炎とILDの術後急性増悪の発症率が高いことが示され、さらに5年生存率も低い傾向を示しました[4]。
図1にはCOPDとILDを含めた慢性呼吸器疾患を合併した肺癌症例の生存曲線を示します。合併疾患の影響で肺癌による再発死亡だけでなく、呼吸不全による死亡率が増加していることを示します。
そのためこのようなリスクを有する患者さんに対しては、術前後での積極的な呼吸理学療法,水分管理,ステロイド投与といったさまざまな予防措置を講じて、以前に比べかなり術後合併症を減少させ、術後のQOLを高められるようになってきました[5]。これは他の病院と比較してもかなりよい成績と考えています。
図1:肺癌術後生存曲線 (縦軸:生存率,横軸:術後年数)
IA群:正常呼吸機能患者,
IB群:正常呼吸機能を持っているが、レントゲン写真上間質性肺疾患を合併している患者,
IIA群:慢性呼吸不全を合併している患者,
IIB群:慢性呼吸不全の上に間質性肺疾患を合併している患者
(2)COPD合併肺癌の呼吸生理に関する研究
肺癌の手術は、肺を切除するのですから切除した分だけ肺活量は悪くなります。手術で切除する部分の大きさは手術前の検討でおおよそ予測をつけることができます。これが合併症をもたない正常な肺癌症例であれば、手術前の予想と手術後の肺活量にほぼ大きな差はありません。しかし、我々の研究によると、COPD症例は手術前に予想した肺活量よりも、実際の呼吸機能検査の値は15%ほどよくなることがわかりました(図2)[6]。 従って肺機能が悪いからといって簡単に手術をあきらめず、十分な予防措置を取ることにより、積極的に手術を行い、肺癌などの原疾患を治すことが可能と考えています。
図2:肺癌手術術前後での肺機能(1秒量)の変化
肺を切除することによる肺機能の損失率を示しており、変化率が高いほど肺機能は失われていることになる。