コーチングによる多職種チーム医療の活性化と医療従事者の人材育成

研究代表者 横尾 英孝 千葉大学 医学部附属病院 助教

研究概略

コーチングは目標達成のために必要な知識やツールを相手に備えさせる対人支援技術のひとつで、近年医療の世界にも広まりつつあります。一番のポイントは「何も教えないこと」です。もちろん医療職は専門職で、専門的な知識や技術を教授していかなければ新しい人材を育成できませんが、それとは区別して、相手の考えを整理し、新しい気づきや視点を創造することで行動の選択肢を広げ、主体的な行動変容を促すアプローチがコーチングなのです。

私は以前、同期と巨大な地域中核病院に赴任した際、何千人という糖尿病患者を目の前に専門医2名だけでは限界があることを痛感し、多職種からなる糖尿病チームを活性化することで病院や地域全体の糖尿病診療レベルを向上させることにしました。そこで出会ったのがコーチングです。画像1のような一定のフローに沿った対話をチームの鍵となる医療スタッフ10名に継続して行うと、画像2のようにスタッフの自己効力感が上昇し、中堅~部長クラスの医師4名においても業務効率が上昇していました(いずれも自己評価)。

これらの成果は日本医療マネジメント学会、日本臨床コーチング研究会、欧州国際医学教育学会(ePoster)で発表した際にも反響が大きく、コーチングは医療従事者の人材育成に非常に有用であると考えています。   

画像1 コーチングにおける対話

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画像2 コーチングによる医療従事者の変化

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本研究の展望 / 臨床応用に向けて

横尾 英孝(研究代表者)
現在私はコーチングの医学教育への本格的な導入に取り組んでいます。平成28年度の医学教育モデル・コア・カリキュラム再改訂時の際、社会の変遷に伴い「多様なニーズに対応できる医師の養成」が掲げられましたが、教員の多忙、医学生の多様化、医療の高度化・細分化などの事情にそれに対応する十分な医学教育が実践できているとは言い難い状況です。
令和元年度より、科研費の研究として本学の教育専任医師の教育能力開発やクリニカル・クラークシップにおけるコーチングの実践に着手し、新しい医学教育法の確立を目指しています。

横手 幸太郎(千葉大学大学院医学研究院 内分泌代謝・血液・老年内科学 教授)
横尾先生に教えて頂くまで、恥ずかしながら私は「コーチング」について全く知りませんでした。ところが、よくよく見渡してみると、ビジネスの世界をはじめ、広く社会で注目される技法であることが分かりました。行動変容が大切とされながら、決定的な手段を持たなかった生活習慣病のマネージメントではもちろんのこと、職場における人間関係の円滑化にも大いに有用なスキルだと思います。横尾先生は、地域の基幹病院でのご経験を通じてコーチングに出会い、いち早くこれを臨床医学へ導入、その誠実なお人柄も相まって全国的にも知られる存在となりつつあります。医学教育への応用を試みる新しい研究も開始されており、今後のご活躍を楽しみにしています。

 

関連リンク

2017年の欧州国際医学教育学会(AMEE2017)で発表したePoster

KAKENサイト「臨床実習中の学習者に自発的行動を促す新しい対面指導法の開発に関する研究」

m3.com病院クチコミナビ「医師のためのコーチング講座」

Hello, Coaching! プロフェッショナルに聞く「コミュニケーションで日本の医療現場を変える」