呼吸器外科 植松靖文
今回、私はご遺体を用いた肺移植のClinical anatomy labに参加させて頂きました。医学生の時に解剖実習で初めて本物の人体の構造に接し、直接目で見て、手で触れながら学んだ衝撃と感動は今でも鮮明に覚えております。非常に厳かな空気の中、緊張しながら実習に臨ませて頂きました。その頃から月日も経ち、私も今では一人の外科医として日々の診療に励んでおります。解剖実習の経験が無ければ、外科の道は想像すら出来ない世界であったと思います。
現在、私自身は医師として7年、呼吸器外科に入って5年が過ぎようとしています。肺を中心として様々な手術を執刀させて頂いておりますが、胸腔内の構造や手術の方法などについて医師となってからも定期的に細かく確認する必要があります。そういった時、ご遺体で確認させて頂くことが実際の手術のために非常に勉強になります。
今回のClinical anatomy labでは、肺移植という手術についての勉強をさせて頂きました。肺移植では、様々な理由で肺の状態が非常に悪く、そのままでは生きていくことが困難な患者様に対して行う手術です。患者様の家族で健康な肺を持っている方、または健康な肺を持っているものの脳死状態などになってしまったドナー登録済みの方の肺を、状態の悪い患者様の肺と交換するという内容です。胸を大きく開いて気管支や太い血管をきれいに繋ぎ変えるという難しい手術であり、時間もなるべく早く行う必要があるため、事前のシミュレーションが非常に大切になります。
肺移植自体は肺癌の手術などに比べて国内でもまだまだ件数の少ない手術であり、実際の現場での経験だけでは不十分な点もあります。しかし、移植でしか助からない患者様が多く存在することも事実です。そのため、Clinical anatomy labでの定期的なシミュレーションを行うことで、いつ移植手術があっても大丈夫なように我々の移植手術に対する経験数を増やして頂いております。
現在、日本の医療は献体制度に支えられて成り立っていることを、解剖実習やClinical anatomy labを通して日々実感しております。以前、ご遺体の火葬に同席させて頂いた際、この方々には生前の人生があり、大切なご家族がいらしたんだということを改めて感じました。そういった中で、献体を決意してくださった事、そのことに理解を示して下さったご家族様には感謝すると共に非常に尊敬しおります。
私も日々研鑽を積み、呼吸器外科医として医療を通じた社会貢献を行うことで、献体を決意して下さった方や、そのご家族様への恩返しができればと思います。今回の肺移植シミュレーションで学んだ内容について隅々まで今後の診療に活かせるように、これからも努力致します。最後になりますが、ご献体いただいた方々、およびご遺族の皆様、本当にありがとうございました。