医師が手術や検査を上手に行う為には、解剖の立体構造や神経、血管、靭帯や筋、各種内臓などの組織の硬さや脆さまで含めて熟知しないとなりません。授業として行う解剖実習で使わせて頂くご遺体は、腐敗を防ぐためにホルマリンにより固く変質しており、構造を学ぶ事はできますが、質感を学ぶ事はできません。また固くなってしまっているために臓器をよけることができず、ひとつひとつ摘出しながら深部の解剖に至ります。患者さんに行う手術や検査では、周りの正常な臓器は傷つけないようにしながら目的の臓器の治療をしなければならず、手や器械を動かせる範囲はかなり狭く制限されてしまいます。
どれだけ学生時代に解剖を学んだとしても、医師になってから必要な知識・技術は簡単には身につける事ができません。実際に多くの手術や検査は、患者さんの治療に立ち会いながら学ぶOJT(On the Job Training)が基本です。初めて胃癌の手術をしたり、初めて肺癌の手術をしたりするときも、患者さんの安全を意識しながら指導医の指導の元、執刀します。ゴッドハンドと称される高名な医師であっても、医師は常に患者さんに育てて貰っているのです。
手術を執刀する。そこには当然患者さんの生命・安全に繋がるリスクがあります。このリスクを軽減するために、医師は様々な方法で自己研鑽をしています。知識は教科書や論文、学会に参加することで学べます。技術は模型で手術をしたり、最近はコンピューター技術の進化で作られたシミュレーターでトレーニングしたりします。でも、実際の患者さんに手術を行う時にはとても緊張します。カーレースのテレビゲームが上手だからといって、本当の車で街中を安全かつスピーディーにドライブできるでしょうか?
また、テクノロジーの進化により、患者さんに負担を掛けずに小さな傷で行える手術が増えてきました。狭いところで行う手術が増えるに従い、指導医が手を横から出せる従来のOJTでは指導できない術式も増えてきました。
解剖をもっと学び、手術や検査が上手な医師になりたい!
最新の技術で新しい医療機器を開発し、治療に貢献したい!
より合併症が少ない手術法を追求し、患者さんを救いたい!
患者さんの前に立つ人間だからこそ溢れてくる想いがあります。私たちはこの想いに応えたい。
この気持ちは、「医学の教育や研究に貢献して次世代を育てたい」と考えてくださっている千葉白菊会に伝わり、多くの皆様が献体登録をしてくださっています。
CALで学ぶ医師は「自己研鑽」だけに留まらず、献体してくださった方々の想いも背負って勉強して頂きます。多くの人々の気持ちを医療として結実させることができるクリニカルアナトミーラボの存在は、とても意義深いものであると考えています。