千葉大学大学院医学研究院
形成外科学
千葉大学病院
形成・美容外科
生まれ持った頭蓋・顎・顔面骨の変形を対象とします。小児においては形態のみならず、脳の発達の改善も期待して治療を行っております。
赤ちゃんの頭蓋骨は大人と異なり、何枚かの骨に分かれています。柔らかい脳の表面に何枚かの骨が島の様に浮いていると表現した方がわかりやすいかもしれません。骨と骨とのつなぎ目を頭蓋骨縫合と呼びます(図1)。乳児期には脳が急速に拡大します(生後1年で約2倍の大きさになります。)ので、頭蓋骨もこの縫合部分が広がることで脳の成長に合わせて拡大します。成人になるにつれ縫合部分が癒合し強固な頭蓋骨が作られるわけです。
頭蓋骨縫合早期癒合症とは、何らかの原因で頭蓋骨縫合が通常よりも早い時期に癒合してしまう病気で、狭頭症とも呼ばれます。頭蓋骨縫合が早期に癒合してしまうと、頭蓋骨の正常な発育が阻害されるため頭蓋が狭くなる、頭蓋骨が変形する等の変化が生じます。
頭蓋の変形は早期癒合が起こった縫合線と密接な関係があり、長頭、三角頭、短頭、尖頭、斜頭などがあります(図2)。
またクルーゾン症候群やアペール症候群といった、頭蓋骨縫合早期癒合症に顔面や手足の先天異常を合併する病気もあります。こうした症候群では、頭蓋骨の変形だけでなく水頭症や頭蓋内圧の上昇を認める例も少なくありません。
赤ちゃんの頭蓋骨は、子宮内での圧迫、産道を通る際の圧迫、また寝癖などの外力で容易に変形します。こうした外力による変形は自然に改善することが多いので心配ありませんが、頭蓋骨縫合早期癒合症との鑑別が大切です。お子様の頭の形がおかしいとご心配な場合は、専門の形成外科や小児脳神経外科の受診を勧めます。
頭蓋骨縫合早期癒合症は放置すると頭の変形が残ってしまうばかりでなく、脳組織の正常な発達が抑制される可能性がありますので、適切な時期に手術が必要と考えられています。手術の目的は狭くなった頭蓋を拡大することで脳が成長できる環境を整えてあげることと、頭の形を正常にするという美容的な意味合いがあります。
頭蓋骨縫合早期癒合症の種類により様々な手術法があります。また年齢によっても術式は変わります。通常、脳外科の手術のように頭皮を大きく切開し、変形している部分の頭蓋骨を切り、正常の頭蓋骨に近い形に組みなおす手術が行われています。乳幼児の骨の固定には、できるだけ異物として残らない吸収糸や吸収性のプレートが用いられます。最近では、骨延長器を用いた手術や、内視鏡下で骨切りを行いヘルメットで頭の形を矯正するなどの侵襲の少ない術式も開発されています。
クルーゾン症候群やアペール症候群などいわゆる症候群性の頭蓋骨縫合早期癒合症では、顔面の低形成があるため気道が狭く呼吸困難を認めることがあり、眼球突出や反対咬合を伴います。したがって頭蓋の手術だけでなく、顔面骨を骨切りし適切な位置へ移動させる手術が必要になります。
手術によって狭くなった頭蓋が拡大されるので、頭蓋内圧の正常化が得られ脳組織の発達が期待できます。また変形した頭蓋の修正による美容的改善が得られることで、子供が社会生活を円滑に営む助けとなります。症候群性の頭蓋骨縫合早期癒合症では顔面骨の手術により気道が拡大し呼吸機能が改善し、また眼球突出を含めた顔貌の著しい改善が得られます。
手術の合併症としては出血、感染、髄液瘻、髄膜炎などがあげられます。形成外科、脳神経外科、麻酔科などがチームで治療に当たれる体制が必要です。
単純な頭蓋骨縫合早期癒合であれば、適切な時期に適切な手術が行われれば一度の手術で治療は完結することも期待できますが、症候群性の頭蓋骨縫合早期癒合症などでは複数回の手術が必要になることもまれではありません。頭蓋顔面の形態は年齢により変化しますので、長期にわたる経過観察が必要です。
(形成外科学会ホームページより)
骨延長とは、わかりやすく説明すると、骨に切れ目を入れて、その両側の骨を毎日少しずつ引き延ばして延長させることにより、切れ目の部分に骨組織を新しく作ってもらう治療法です。
例えば、先天奇形や外傷などで短くなってしまった骨を延ばす場合、従来法では、骨を切って(骨切り術)すぐに所定の長さまで移動し、生じる隙間に骨を移植していました。この移植骨は自分の骨でないと拒絶反応により生着しませんので、同じ患者さんの他の部分から骨を採取する必要がありました。しかも、この方法には移植された骨が感染をおこしたり、吸収され、長さが元に戻ってしまい易いという欠点がありました。
これに対して、1960年代後半にロシアのイリザロフという整形外科医が、骨に切れ目を入れて器械(創外固定器)を装着して毎日少しずつ引き延ばすことにより、骨を再生、延長させるという画期的な術式(骨延長術)を考案しました。この方法は当初、整形外科領域で四肢の長管骨の延長に応用されましたが、 1980年代の終わりから形成外科領域でも顔面骨の延長に応用されるようになったのです。形成外科領域ではまず下顎骨の骨延長に応用され、1990年代の中頃からは上顎骨や頭蓋骨の骨延長に適応が拡大されてきており、現在では一般的な手術法となっています。そのほか、形成外科領域では手指や足趾の骨延長術も行われています。
頭蓋顎顔面の骨延長術が適応となる形成外科領域の疾患としては、各種先天奇形による骨形成異常や劣成長が一般的です。小顎症、狭頭症、クルーゾン病や唇顎口蓋裂による上顎劣成長などに適応されています。
骨延長術の実際は、延長したい骨を骨切りして骨延長器を装着し、1週間後くらいから毎日0.5-1 mm程度の速度で骨切り部を拡大していきます。毎日の骨延長は無麻酔で可能です。あらかじめ計画した延長量に達すれば延長は終了しますが、その後2-3ヶ月間、延長器を装着したままで延長部にしっかりした骨が出来るまで保定をします。その後、骨延長器を除去します。骨延長期間中に疼痛などの障害はほとんどありません。また、入浴、通学などの日常生活はほぼ通常通りに行うことが可能です。
骨に装着する骨延長器には大きく分けて内固定型骨延長器と外固定型骨延長器の2種類あります。内固定型骨延長器は小さいもので大部分が皮下に埋没されますのでほとんど目立ちませんが、骨延長終了後に除去手術が必要です。外固定型骨延長器は除去のための手術は原則的に不要ですが、装置が大きいため目立つのが欠点です。
骨延長術は形成外科の治療法としては比較的新しいものですが、合併症が比較的少なく、成績が安定しているのが特徴です。数ヶ月間、骨延長器を装着しなくてはなりませんが、日常生活はそれほど障害されませんし、特に頭蓋顎顔面骨では非常に良好な骨再生が得られますので、今後ますます適応が拡大されるでしょう。また、除去手術が不要となる吸収性の材料を用いるなど、今後の骨延長装置の進歩にも期待が持てます。
(形成外科学会ホームページより抜粋、一部改変)
千葉大学大学院医学研究院 形成外科学
千葉大学病院 形成・美容外科