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千葉大学医学部附属病院
プログラム担当教員
早くから臨床領域を学び、治療学を推進していく
このプログラムでは「治療学」という聞き慣れない言葉がひとつのキーワードになっています。 通常、医師は患者さんに対してまず病気の診断をし、それから治療にかかります。ところが従来の医学教育の枠組みでは、「診断」までの領域で課程が終わってしまう。実際の治療については、卒業後に学び、実践していくことになる。ですからこの「卒後教育」というものが非常に重要になります。
しかし現場での治療というものは、常に進化しています。今までの手法よりも優れた治療が生み出されれば、それによって治る患者さんも増えていく。ですから医学教育に携わるわれわれ大学としても、もっと積極的に新しい治療を生む「治療学」を推進するべきだし、それを担う人材⋯医学、薬学といったいろいろなバックグラウンドと、広い知識と視野を持った若い人材を育成する必要がある。そうした観点から始められたのが、このプログラムです。
私自身はもともと内科医なのですが、今は臨床研究を専門分野としています。臨床研究はいろいろな専門職が集まり、ひとつのチームを作ってあたることになります。このチームのメンバーは一人ひとりがそれぞれのバックグラウンドを持ち、専門的な知識と役割をもっています。
研究を通して病気のメカニズムを明らかにし、「治す」方法を模索するというのは医学⋯医師の領域ではありますが、治療法として構築するためには、医師だけの力でできるものではありません。たとえば新たな治療を行うためには、まず臨床試験の前段階である「非臨床試験」を行いますが、この段階で、使用する薬物の効果や毒性などに関して、専門家の力が必要になります。臨床研究の段階では安全性を確認しながらステップを踏んでいき、少人数を対象とした試験を行ってから対象数を増やし、きちんとしたデータを出していく。
こうした臨床領域のことは、通常の医学教育では学生時代に学ぶことがありません。しかしながら、若い時期から広い知識や情報、さらに研究から臨床へとつながる流れを知り、学ぶことのできるこのプログラムが、とても意義深いものとなるのです。
基礎を知り、臨床を知り、さらにその間をつなげることもできるというのは、非常に欲張ったものではあります。ですがそれができる人材、「治療学」に優れた人材は、学内でもリーダー的な存在になるでしょうし、将来の医療において大きな役割を担うことになるはずです。
「基礎から臨床へ」千葉大学ならではの強みを活かして
千葉大学では臨床試験が年間およそ100件ほど行われており、新しい治療学を確立しようとする動きは強まっています。基礎研究の結果を臨床研究に移し、さらに治療につなげていこうという流れです。今のところ、このポジションに立つ人材が非常に少ない。実際に、この仕事をしている人間というのは、全国的にも少ないのです。なぜか。そうした人材を「育てる仕組み」というものが充分ではないからです。
海外に目を向けてみると、たとえばアメリカなどでは大学内にそうしたシステムがあって、学外の企業などとも連携しながら、教育を施していく。ところが残念ながら、日本にはそこまでの環境ができあがっていない。そこを改善しない限り、日本の治療学は世界の流れから取り残されてしまいます。現時点でさえ、基礎論文の数は世界でもトップクラスなのに、臨床論文となると23位とかなり少ない。ここに大きな開きがあるのです。
基礎研究について日本は伝統的にしっかりしている。しかし臨床研究の重要性というものに気づくのが遅かったということがあります。遅ればせながら、今まで弱かった「治療学」という部分を発展させていかねばならないし、それができる人材を育てていくことが重要だと考えています。
学生一人ひとりがもっているバックグラウンドを大切に
このプログラムに参加する学生のみなさんは、すでに医学あるいは薬学のトレーニングを受けているわけですが、治療学というのはその上にさらにプラスされるものです。ですから彼らを指導するわれわれとしては、まず彼らが個々に持っているバックグラウンドを大切にし、その上で教育にあたることを重視したいと考えています。
ある程度の知識や経験をもった大人を教育していくというのは、実はなかなか難しいところがあります。これが小学生くらいの年頃ですと、教わったことはどんどん覚えていきますが、大人は何かを教えられても、それが「自分にとって必要なものかどうか」というふるいにかけてしまう傾向があります。そこで「自分にはあまり必要ではないな」と感じてしまうと、なかなか身になりません。第一に、治療学というものがこれからの医療において必要なものだということを理解してもらうことが大切です。
また治療学というものは、医師一人ではできません。基礎研究ですと、自分自身の努力や力量でなんとかなる場合もあるのですが、臨床研究となると、そうはいかない。広い分野での専門知識が必要になりますから、医学、薬学、場合によっては理工学の知識も必要になることもあるでしょう。そうしたさまざまな分野の専門職がチームを組み、推進していくことが必要です。
あとは「諦めない」ということです。常に最善を目指し、あきらめず、ベストを尽くす。それでこそ成果を生み出すことができます。多くのメンバーと連携・協力しながら、決して諦めずに取り組んでいくこと。その重要さを伝えていきたいと思います。
医療という「出口」に近い場所で感じられる大きな魅力
基礎研究というのは、非常に時間がかかるものです。現象に対して仮説を立て、それを実験で検証して確かめていく。予想通りの結果が出たら、常に同じ結果が出るものかどうかを確かめる。予測と違う結果が出れば、なぜそうなったのかを検証する。同じ作業を延々と繰り返して、ようやく結論に達するわけです。ですから基礎研究で出てくる成果の裏側には、否定された仮説や失敗に終わった実験が、それこそ数限りなくあります。それらの上に、ひとつの成果というものが導き出されてくる。
一方、臨床研究では基礎研究に比べて、実現の可能性が非常に高い。もちろん、医療に結びつかない場合のほうが多いのですが、それでも10のうちひとつくらいは、診断や治療などに結実する。基礎の結論を臨床で確かめ、医療に落とし込むという、「出口」にとても近いところでの仕事になりますし、しかもそうした作業に患者さんと一緒に関わることができる。そして今まで以上に優れた診断術や治療法として確立できれば、それは患者さんのためにもなるわけです。私自身、そこにとてもやりがいを感じていますし、このプログラムに参加する学生のみなさんにとっても、大きな魅力として見えるのではないでしょうか。
学生のみなさんには、このプログラムで新しいことを学んでいただくことになります。そこは非常に魅力的なフィールドです。ですからまず、希望をもって参加していただきたい。その中で、自分なりのサイエンティストとしてのものを身につけてほしいですね。なおかつ、研究チームの輪の中心となってメンバーを惹きつけ、チームを牽引していくような人物に育っていただきたいと思います。それは本人のためになることはもちろん、今以上に「治療学」を発展させることになり、その結果より多くの患者さんを助けることにもつながっていきますから。


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